乱読ノート ~出町柳から哲学の道へ~

イギリス思想史を研究する大学教員の読書ノートです。もともとは自分自身のための備忘録として設置したものですが、「隠れ名著、忘れられた名著に関する情報を学生の皆さんに発信したい」というささやかな期待もこめられています。

中山康樹『これがビートルズだ』

ビートルズが公式に残した(現役時代にレコーディングし発表した)全作品、213曲を解説したもの。

何よりも印象に残るのは、ジョン・レノンに対する手厳しい評価であろう。ジョンの熱狂的なファンであれば、憤慨するのではないか。

かいつまんで書くと、こんな感じのジョン評価である。

ジョンはヴォーカリストとしての天賦の才能に恵まれていたが、作曲家としてのピークを早くも『ア・ハード・デイズ・ナイト』の時期に迎えてしまう。以後のジョンをこれを超えることができない。作曲能力の枯渇により、凡曲が目立つようになる。さらに、ヨーコとの出会いによって、バンドへの献身も弱まってくる。曲の弱さを(声を機械的にゆがませるなどの)トリッキーな演出で埋め合わせようする。バンド・サウンドを捨てて、イメージのサウンド化へと逃避してしまう。後期のジョンは空回りしている。

他方、『ラバー・ソウル』以降に全面開花するポールの天才的な作曲能力が絶賛されている。ジョージのインド趣味はマイナス要素でしかなく、インド趣味との決別によって彼は本来の才能を開花させた、と評される。また、リンゴの革命的なドラミングも絶賛され、リンゴのドラムがあってはじめてビートルズサウンドが成立する、とまで言われる。

僕にとって、ポールの書く曲は、ジョンの曲に比べると「優等生」的すぎるように思え、著者のメロディ至上主義的な評価基準に全面的な賛意を表明することはできないが、ジョンの書く曲のスタイルの変化について、本書を読むまでそれほど意識したことがなかったので、とても興味深く読むことができた。著者の手厳しいジョン評はかなり説得的で、真実の一面をえぐっているように感じられた。また、僕はリンゴのドラミングのセンスを高く評価しているものだから、著者のリンゴ評の高さは素直に嬉しかった。ビートルズのバンドとしての結束力、そのユーモア精神に関する言及も興味深かった。

リボルバー』をあまり高く評価していない点で、僕と著者は共通している。アルバムでは『ラバー・ソウル』、シングル曲では「レイン」が僕のいちばんのお気に入りだ。

これがビートルズだ (講談社現代新書)

これがビートルズだ (講談社現代新書)

評価:★★★★☆