乱読ノート ~出町柳から哲学の道へ~

イギリス思想史を研究する大学教員の読書ノートです。もともとは自分自身のための備忘録として設置したものですが、「隠れ名著、忘れられた名著に関する情報を学生の皆さんに発信したい」というささやかな期待もこめられています。

2006-05-01から1ヶ月間の記事一覧

藤原和博『味方をふやす技術』

民間人校長(杉並区立和田中学校)として奮闘中の著者がサラリーマン時代*1に発表したエッセイを集めたもの。人生における幸福、仕事と家庭、職場の人間関係(コミュニケーション)といった身近な話題が、簡潔で軽妙な筆致で綴られている。文体と同様にメッセー…

佐藤学『習熟度別指導の何が問題か』

本文わずか70ページの小冊子(ブックレット)だが、中味は濃い。近年小学校・中学校で急速に普及している「習熟度別指導」を実証的な調査研究にもとづき批判的に検討している。そして、「習熟度別指導」に代替する学びの様式として、「協同的な学び」「互恵的…

福田和也『バカでもわかる思想入門』

『新潮45』誌上の連載(「おばはんでもわかる」シリーズ「思想・哲学篇」)をまとめたもの。帯の惹句には「万巻の書のエッセンスを1冊の本に集約し、世界を代表する12の思想がらくらくと知ったかぶりできる決定版!」とある。その12の思想とは、マルクス『資本…

田中美知太郎『プラトン「饗宴」への招待』

碩学・田中美知太郎教授によるプラトン『饗宴』解説本。1971(昭46)年刊。もともとは1966(昭41)年11月、NHK(ラジオ第一)で一ヶ月(26回)にわたって放送された「古典講座」の講義録である。「饗宴(シュンポシオン)とは何か」という問いを導入として、『饗宴』と…

斎藤美奈子『誤読日記』

『週刊朝日』『アエラ』に連載されていたコラム(読書欄)を単行本としてまとめたものである。書評の対象として170冊あまりの新刊書が選ばれている。 いまここにいたり、取り上げた170冊あまりの本のリストを眺めて、われながら感心した。もちろん、ここに出て…

橋本治『ちゃんと話すための敬語の本』

著者自身が「まえがき」で断っているように、本書は「正しい敬語の使いかたを教える本」ではない。「いったい敬語ってなんなんだ?」ということを考えるための本である。まず、問題の立て方が見事だ。本書が想定している読者は高校生以下である。かなり高い…

竹内一郎『人は見た目が9割』

67万部を突破したベストセラーだが*1、amazon.co.jpのレヴューを拾い読むかぎり、評判は概ね芳しくない。「羊頭狗肉である」とか「タイトルと中味がずれていて、しかも中味が薄い」といった酷評が大勢を占めている。なるほど、「生まれつきの容姿で人生が左…

アレクサンダー・ロックハート『自分を磨く方法』

たまには気まぐれで自己啓発(成功哲学)本なども読んでしまう。堂島のジュンク堂に立ち寄ったところ、平積みされているのがふと目に留まり、衝動買いしてしまった。第1刷が2005年8月20日発行で、僕が買ったのは2006年4月10日発行の第16刷だから、かなり売れて…

塚田孝雄『ソクラテスの最後の晩餐』

タイトルに反してソクラテスは本書の主役ではない。本書は古代ギリシャ(特にアテナイ)の一般庶民の日常生活を一般読者向けに解説したものである。衣食住はもちろんのこと、結婚、学校、祭り、オリュンピア競技、芸術(演劇、絵画)、暦法、さらには陶片追放や…