乱読ノート ~出町柳から哲学の道へ~

イギリス思想史を研究する大学教員の読書ノートです。もともとは自分自身のための備忘録として設置したものですが、「隠れ名著、忘れられた名著に関する情報を学生の皆さんに発信したい」というささやかな期待もこめられています。

2006-01-01から1年間の記事一覧

木暮太一『落ちこぼれでもわかるミクロ経済学の本』

久々の更新である。僕は「経済学説史」担当教員として現在の勤務先の大学に採用されたが、その「経済学説史」が「西洋経済史」や「社会思想史」などと並んで歴史系科目に分類されている関係で*1、今のところ僕には「マクロ経済学」や「ミクロ経済学」といっ…

文春新書編集部編『論争 格差社会』

ここ数年世論をにぎわせている格差論争。この論争の全体像を知る上で重要だと思われる論文・対談を12本収録している。著者・対談者の立場は多岐にわたっており、読者はこれ一冊で格差社会の様々な側面に触れることができる。たいへん便利な一冊だ。個人的に…

勢古浩爾『「自分の力」を信じる思想』

5期ゼミ2006年度秋学期最初のテキスト。「力」をテーマにゼミをしたいと言っていたFさんが自分で見つけてきた。最初の読後感は「よくこれだけ自分と同じことを考えている人がいるもんだなぁ」。僕自信の人生哲学をそのまま活字にしてくれたような本だ。僕は…

マンガで学ぶ、マンガでわかる

「旧・乱読ノート」の2004年2月*1で『マンガ版 聖書旧約・新約物語』を紹介していることからおわかりいただけるように、僕はマンガを学習のための強い味方として積極的に活用している。もちろん時として「ハズレ」もあるが、それでも「当たり」とめぐり会え…

山内志朗『ライプニッツ』

ここ2年超、「存在の連鎖」(と古典派経済学との知的関連)について断続的に研究している。「存在の連鎖」というのは、ラヴジョイ『存在の大いなる連鎖 (晶文全書)』によって定式化されたもので、神によって個別に創造されたすべての種(生物・無生物)は、最も…

遅塚忠躬『フランス革命―歴史における劇薬』

「ブリテンにおけるフランス革命」という事典項目の執筆を依頼された関係で本書を手に取った。基本的な史実の誤認があってはまずいから。著者はフランス革命史研究の大家。人間の尊厳を高らかに謳ったフランス革命が血で血を洗う悲惨をもたらしてしまったの…

ロイ・ポーター『啓蒙主義』

論文書きと引越しに忙殺され、一ヶ月以上も更新をサボてしまった。レヴューすべき書物が大量にたまっている。これから頑張って少しずつ更新してゆかねば。さて…。著者ロイ・ポーターは、惜しくも2002年に56歳の若さで死去した、近代ヨーロッパ社会史・文化史…

勝見明『鈴木敏文の「統計心理学」』

同じ著者の『セブン-イレブンの「16歳からの経営学」』*1は、本書*2のエッセンスを高校生にもわかるようにやさしくまとめたものである。したがって、内容的には6-7割ほど重複している。どちらかを薦めるかと問われれば、記述の平易さから、『16歳からの経営…

勝見明・鈴木敏文・野中郁次郎『セブン-イレブンの「16歳からの経営学」』

4期・5期ゼミで鈴木敏文・齋藤孝『ビジネス革新の極意』をテキストとして使用することになったので、サブ・テキストとして手に取った。本書は、日本最大最強のコンビニエンスストアチェーン、セブン-イレブン・ジャパンの経営手法を素材に、経営学の基本をや…

池田清彦『科学はどこまでいくのか』

高校生向きに書かれた科学史・科学論入門。名著・岩田靖夫『ヨーロッパ思想入門 (岩波ジュニア新書)』(岩波ジュニア新書)の姉妹図書(科学版)と言えるだろう。前半では主として科学史にウェイトが置かれている。プラトンとアリストテレスの相違、ニュートンと…

鈴木敏文・齋藤孝『ビジネス革新の極意』

我が国の流通業界の頂点に君臨する敏腕経営者と、ベストセラー『声に出して読みたい日本語』の著者である異能の国語教育学者との対談。意外な組み合わせに、否が応でも期待は高まる。対談は大成功だったと評価できる。二人の著書をすでに何冊も読破している…

プラトン『饗宴』

2006年度前期「キノハチ研究会(哲学古典読書会)」のテキスト。研究会では、久保勉訳(岩波文庫)を用いたが、訳文に古さを感じさせる箇所も少なくなく、森新一訳(新潮文庫)も適宜参照した。森訳のほうが訳文は現代的だが、注・解説は久保訳のほうがはるかに充…

福田誠治『競争しなくても世界一 フィンランドの教育』

15歳を対象にした「経済協力開発機構(OECD)生徒の学習到達度調査」(PISA2003)において総合トップの成績をおさめたことで、にわかに世界中から注目を集めるようになったフィンランド。最近我が国でも数多くの関連書物が翻訳され、書店に出回っている。本書は…

伊藤守『コミュニケーションはキャッチボール』

成長を続ける幸福な組織がある一方で、衰退の危機に瀕している不幸な組織もある。今や組織の命運を分ける一番の鍵は社員間のコミュニケーションである。本書はコミュニケーション本質を(「言葉」ではなく!)「気持ち」のキャッチボールになぞらえ、ビジネス…

黒崎誠『世界を制した中小企業』

一般には無名だが技術力やシェアで世界最高レベルにある「小さな世界一企業」38社*1を紹介している。 こういったきわめて優秀な中小企業が世間にあまり知られていないのは、つくっているのが精密機器や電子機器の部品といった一般消費者の目に触れないもので…

藤原和博『味方をふやす技術』

民間人校長(杉並区立和田中学校)として奮闘中の著者がサラリーマン時代*1に発表したエッセイを集めたもの。人生における幸福、仕事と家庭、職場の人間関係(コミュニケーション)といった身近な話題が、簡潔で軽妙な筆致で綴られている。文体と同様にメッセー…

佐藤学『習熟度別指導の何が問題か』

本文わずか70ページの小冊子(ブックレット)だが、中味は濃い。近年小学校・中学校で急速に普及している「習熟度別指導」を実証的な調査研究にもとづき批判的に検討している。そして、「習熟度別指導」に代替する学びの様式として、「協同的な学び」「互恵的…

福田和也『バカでもわかる思想入門』

『新潮45』誌上の連載(「おばはんでもわかる」シリーズ「思想・哲学篇」)をまとめたもの。帯の惹句には「万巻の書のエッセンスを1冊の本に集約し、世界を代表する12の思想がらくらくと知ったかぶりできる決定版!」とある。その12の思想とは、マルクス『資本…

田中美知太郎『プラトン「饗宴」への招待』

碩学・田中美知太郎教授によるプラトン『饗宴』解説本。1971(昭46)年刊。もともとは1966(昭41)年11月、NHK(ラジオ第一)で一ヶ月(26回)にわたって放送された「古典講座」の講義録である。「饗宴(シュンポシオン)とは何か」という問いを導入として、『饗宴』と…

斎藤美奈子『誤読日記』

『週刊朝日』『アエラ』に連載されていたコラム(読書欄)を単行本としてまとめたものである。書評の対象として170冊あまりの新刊書が選ばれている。 いまここにいたり、取り上げた170冊あまりの本のリストを眺めて、われながら感心した。もちろん、ここに出て…

橋本治『ちゃんと話すための敬語の本』

著者自身が「まえがき」で断っているように、本書は「正しい敬語の使いかたを教える本」ではない。「いったい敬語ってなんなんだ?」ということを考えるための本である。まず、問題の立て方が見事だ。本書が想定している読者は高校生以下である。かなり高い…

竹内一郎『人は見た目が9割』

67万部を突破したベストセラーだが*1、amazon.co.jpのレヴューを拾い読むかぎり、評判は概ね芳しくない。「羊頭狗肉である」とか「タイトルと中味がずれていて、しかも中味が薄い」といった酷評が大勢を占めている。なるほど、「生まれつきの容姿で人生が左…

アレクサンダー・ロックハート『自分を磨く方法』

たまには気まぐれで自己啓発(成功哲学)本なども読んでしまう。堂島のジュンク堂に立ち寄ったところ、平積みされているのがふと目に留まり、衝動買いしてしまった。第1刷が2005年8月20日発行で、僕が買ったのは2006年4月10日発行の第16刷だから、かなり売れて…

塚田孝雄『ソクラテスの最後の晩餐』

タイトルに反してソクラテスは本書の主役ではない。本書は古代ギリシャ(特にアテナイ)の一般庶民の日常生活を一般読者向けに解説したものである。衣食住はもちろんのこと、結婚、学校、祭り、オリュンピア競技、芸術(演劇、絵画)、暦法、さらには陶片追放や…

納富信留『プラトン』

本文100ページ程度の小著。しかもタイトルはそのものズバリ『プラトン』。しかし、簡便な入門書・解説書を期待して読み始めると、見事に裏切られる。著者自らが「あとがき」で記しているように、「異端の本」(p.118)である。 ここでは。プラトン哲学の解説書…

ポール・ストラザーン『90分でわかるプラトン』

こちらは正真正銘の超初学者向けプラトン入門書。植村光雄『哲学のえほん』の次のステップに手を出すべき本だろうか。本当に90分で読み終えることができる。本文は60ページ足らず。もちろん多くは望めない。プラトンの著作で言及されているのは、わずかに『…

竹田青嗣『プラトン入門』

書名と外観(新書)に騙されてはいけない。本書は入門書・啓蒙書の枠に収まりきらない。一人の在日思想家が自身の世界観を真摯に綴った思想書として読まれるべきである。「人間には言葉を通して他者との共通の理解や共感を見出したいという本源的欲望が備わっ…

S.コリーニ/D.ウィンチ/J.バロウ『かの高貴なる政治の科学』

前回の更新から日数がかなり空いてしまったが、決して読書をサボっていたわけではない。むしろ僕の人生でも一、二を争うほどの高密度で読書に励んでいた。なぜ更新できなかったかのかと言えば、二月後半から三月末までをフルに費やして、重厚で難解な大著二…

清水泰博『景観を歩く京都ガイド』

僕は兵庫県姫路市に生まれ、高砂市に育った。1987年4月、18歳の時に京都にやってきて、以来19年間*1、京都に住み続けている。これまでの37年の人生でもっとも長く居を構え*2、これからもずっと居を構えたいと考えている街である京都。僕は生粋の京都人ではな…

東浩紀『動物化するポストモダン』

本書は、1971年生まれの若手批評家が、コミックやアニメに代表されるサブカルチャー=「オタク系文化」の分析を通じて、高度消費社会の文化状況を「まじめに」(p.9)論じたものである。3期生Y君の勧めで手に取った。本書の評価をめぐって、後日彼と意見交換す…