乱読ノート ~出町柳から哲学の道へ~

イギリス思想史を研究する大学教員の読書ノートです。もともとは自分自身のための備忘録として設置したものですが、「隠れ名著、忘れられた名著に関する情報を学生の皆さんに発信したい」というささやかな期待もこめられています。

2008-02-01から1ヶ月間の記事一覧

八木秀次『反「人権」宣言』

社会思想史教科書の原稿を執筆する際、参考文献として立憲主義と人権に関する入門書(新書)を連続して三冊読んだ。いずれも平明でありながら啓発力に富む素晴らしい内容で、たいへん勉強になったが、とりわけ興味深かったのは、思想的立脚点が三冊三様で、同…

クリストファー・ヒル『ノルマンの軛』

18世紀後半に活躍した急進主義者トマス・ペインに関する論考を書くことになり、参考文献を探しているうちに、長年本棚で眠っていたままになっていた本書をたまたま見つけ、読み始めた。本書は20世紀英国を代表するマルクス主義歴史家(1912-2003)が1954年に発…

朴一『「在日コリアン」ってなんでんねん?』

学生(大学院生)時代、著者のゼミに3年間参加させていただいた。就職後も翻訳の仕事(『エスニシティと経済』)のメンバーに誘っていただいた。そういう意味で著者は僕の恩師の一人と言ってよい。今でも年賀状を交わしあう親しい関係である。僕はかなり以前(幼…

西いずみ『あいまいな日本の不平等50』

「もやどき。」すなわち「よくわからずにモヤモヤしていたイマドキの問題が1冊でわかるシリーズ」の中の1冊であるとのことだ。不平等問題や格差問題を冷静に(学問的に)論じたい場合、数値データは不可欠であるが、本書はそうした数値データが満載されている…

プライス『祖国愛について』

研究用の読書。著者のリチャード・プライス(1723-91)は、イギリスの理性的非国教徒(ユニテリアン)の牧師である。本書はそのプライスが1789年11月4日に名誉革命記念協会の記念祝賀会で行った説教である。同年7月14日に勃発したフランス革命に原理的な支持を与…

日垣隆『世間のウソ』

『そして殺人者は野に放たれる (新潮文庫)』で第3回新潮ドキュメント賞を受賞した気鋭のジャーナリストが、世間をミスリードする15のウソ(宝くじ、自殺報道、安全性、男女、人身売買、性善説、精神鑑定、児童虐待、部活、料金設定、絵画市場、オリンピック、…

山本貴光・吉川浩満『問題がモンダイなのだ』

山椒は小粒でもぴりりと辛い、というのが本書を読んでの第一印象だ。人間が思考するの仕組み・プロセスを、以下のようなモデルに即して解説している。 ①問題との出会い ②問題との取り組み ②-1解決 ②-2解消(無効化) ③新たな問題の発見 野矢茂樹『はじめて考え…

クリストファー・ヒッチンス『トマス・ペインの『人間の権利』』

ポプラ社の《名著誕生》シリーズのラインアップの一冊で、マルクスの『資本論』、ダーウィンの『種の起源』に続く第3弾として公刊された。アメリカ独立革命とフランス大革命に関わった政論家トマス・ペインの主著『人間の権利』を、それを生み出した時代背景…

大友博・西田浩編『この50枚から始めるロック入門』

本書は、ビル・ヘイリー&ヒズ・コメッツの「ロック・アラウンド・ザ・クロック」が全米チャートの首位を獲得した1955年をロック誕生の年として定め、それ以降の50年間を10年ずつに区切り、それぞれを「黎明期」「発展期」「爛熟期」「転換期」「再構築期」と…

齋藤孝『発想力』

『週刊文春』の連載を一書にまとめたもので、1編6ページのエッセイが29編収録されている。発想力を鍛えるための指南書ではなく、(結果的に失敗したアイディアを含めて)著者が日々の生活や仕事の中で思い浮かんだアイディアの数々を惜しみなく披露してくれて…

後藤啓二『企業コンプライアンス』

著者は元警察官僚で現在は弁護士として活躍している。本書はそんな著者によるコンプライアンス経営に関する入門書である。ここ数年に発生した企業不祥事の実例(ライブドア、三菱自動車、雪印、西武鉄道、松下電器、パロマ、耐震強度偽装、ダスキンなど)を分…

ロナルド・ドーア『働くということ』

著者は高名なイギリス人社会学者。本書は2003年に日本で行った講演(ILOと東京大学法学部との共同主催)の原稿がもとになっている。著者自身、本書を「私の半世紀にわたる社会学者としての一種の回想・総括である」(p.ix)としている。グローバリゼーションが加…

養老孟司『死の壁』

養老孟司の新潮選書第2弾。ただし、僕が本書を読んだのは『バカの壁』『超バカの壁』に次いで3番目。(身体に代表される)自然の軽視、都市化・情報化の進展が、死に対する私たちの考え方に大きな歪みをもたらしていることを、死にまつわる諸問題をさまざまな…