『そして殺人者は野に放たれる (新潮文庫)』で第3回新潮ドキュメント賞を受賞した気鋭のジャーナリストが、世間をミスリードする15のウソ(宝くじ、自殺報道、安全性、男女、人身売買、性善説、精神鑑定、児童虐待、部活、料金設定、絵画市場、オリンピック、裁判員、大国、他国支配)を暴く。同じジャーナリストでも、斎藤貴男さんあたりと比べると、義憤は抑制気味で、論理と確率統計にもとづいた冷静沈着な議論を展開しようとしている*1のが、この人の持ち味だ。ただ、1テーマあたりわずか10ページほどの紙幅しか与えられていないせいか、議論がとても淡白に感じられ、「ええ、もう終わりなの? まだまだ論じることがあるでしょう?」という拍子抜け感が伴うことは否めない。この字数では著者本来の持ち味が十分に発揮されない。新潮新書編集部の企画倒れだと評さざるをえない。
そんな中、第5話「人身売買のウソ」は秀逸なでき映えである。ゼミ生にはこういう卒論を書いて欲しい。中国での赤ちゃん売買事件の新聞報道記事を出発点に、記事を鵜呑みにせず素朴な「?」を大切にし、複数の記事を比較・検討をしながら論理的推論を重ね、マスコミ報道の偏向を明るみに出し、事件の真相へと迫っていく。そのスリリングなこと。骨太な思考のスタイルを学んでもらいたい。
- 作者: 日垣隆
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2005/01
- メディア: 新書
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評価:★★☆☆☆
*1:決して、斎藤さんの議論が冷静沈着さを欠いている、という意味ではないけれど。