乱読ノート ~出町柳から哲学の道へ~

イギリス思想史を研究する大学教員の読書ノートです。もともとは自分自身のための備忘録として設置したものですが、「隠れ名著、忘れられた名著に関する情報を学生の皆さんに発信したい」というささやかな期待もこめられています。

2010-01-01から1ヶ月間の記事一覧

相原茂『はじめての中国語』

タイトル通り、中国語の入門書である。新書サイズなので、網羅的でありえないが、実に簡にして要領を得た入門書にできあがっている。ロングセラーになるわけだ。十数年前、相原先生ご担当の「ラジオ中国語講座」を熱心に聴講した。そのかいあってか、文字か…

松尾理也『ルート66をゆく』

本書は、産経新聞外信部記者が、ルート66と呼ばれるシカゴからロサンゼルスまで通じる有名な道路を旅しながら、「ハートランド」と呼ばれる中西部の「保守」地域に暮らす人々の生の声をレポートしたものである。保守思想を研究してかれこれ20年近くになるが…

根井雅弘『市場主義のたそがれ』

来年度の「経済学説史」講義では、「新自由主義(ネオリベラリズム)」を主題として講じる予定である。必然的にミルトン・フリードマンをキー・パーソンの一人として採りあげることになるので、予習を兼ねて読んでみた。本書はフリードマンの経済学説の解説…

有森隆+グループK『「小泉規制改革」を利権にした男 宮内義彦』

宮内義彦・オリックス会長は、海部・細川・村山・橋本・小泉の各政権において、規制緩和を促進するための政府の委員会に関わり、歴代内閣の規制緩和の指南役を務めてきた。とりわけ、小泉政権においては、竹中平蔵と並んで、日本全体の規制緩和の総指揮官と…

江上剛『非情銀行』

周知のように、バブル経済の崩壊以後、わが国の大手銀行は生き残りをかけて巨大合併へとひた走った。いわゆるメガバンクの誕生である。本書はこの時代の大手銀行の闇を題材とした小説である。表向きはフィクションということになっている。しかし、著者は、…

中野雅至『「天下り」とは何か』

自力(公募)で大学教員に転身した元厚労省キャリア官僚による「天下り」解説書。著者は、天下りの問題点を十分に認識しつつも、それが一定の合理性を伴って形成され存続してきた制度である以上、簡単になくすことができない、と主張する。この主張が本書の…

西部邁『保守思想のための39章』

西部氏は僕の思想形成に最も大きな影響を与えた知識人の一人である。学部学生時代、『経済倫理学序説』『大衆への反逆』『貧困なる過剰』『新・学問論』『生まじめな戯れ』といった著作を貪るように読んだ。そして、大学院の指導教員として西部門下の佐藤光…

清水昭男・広岡球志『マンガ なぜ巨大企業はウソをついたのか?』

かつて売上高で全米第7位を誇った世界有数のエネルギー企業エンロンは、2001年12月に634億ドルもの負債を抱えて破綻した。本書はこの大企業の膨張と破綻のプロセスをわかりやすく(マンガなので当然だが)描き出している。投機的な取引に失敗し、損失を連結…

佐藤健志『本格保守宣言』

もっと高い評価が与えられるべき本、もっと話題になってよい本だと思う。Amazon.co.jpに読者レヴューが3本寄せられているが、いずれも本書にきわめて低い評価しか与えていない。とても残念だ。かれこれ20年近く「近代保守主義の祖」バークの研究をしてきた立…

城山三郎『わしの眼は十年先が見える』

経済思想史を専攻する研究者でありながら、本書を読むまで、本書の主人公である大原孫三郎(1880-1943)と大原社会問題研究所との関係について、まったく何も知らなかった。自分の無知を恥じるばかりだ。本書は倉敷紡績や倉敷絹織(現在のクラレ)などの社長…

内橋克人『悪夢のサイクル』

一貫して地方の衰退と共同体の崩壊を憂い、共生経済のヴィジョンを説き、新自由主義(ネオリベラリズム、市場原理主義)、マネー資本主義、規制緩和に反対してきた反骨の経済評論家の集大成とも言える著作である。本書が同じ著者の他の著作と比べて新鮮なの…

中岡望『アメリカ保守革命』

本書は20世紀アメリカ保守主義の歴史と現状に関するコンパクトな概説書である。リベラリズムが主流派思想であった20世紀前半のアメリカにおいて、もともとそれに対抗する思想運動として起こった保守主義は、徐々に現実の政策への影響力を拡大してゆき、ブッ…