乱読ノート ~出町柳から哲学の道へ~

イギリス思想史を研究する大学教員の読書ノートです。もともとは自分自身のための備忘録として設置したものですが、「隠れ名著、忘れられた名著に関する情報を学生の皆さんに発信したい」というささやかな期待もこめられています。

根井雅弘『市場主義のたそがれ』

来年度の「経済学説史」講義では、「新自由主義ネオリベラリズム)」を主題として講じる予定である。必然的にミルトン・フリードマンをキー・パーソンの一人として採りあげることになるので、予習を兼ねて読んでみた。

本書はフリードマンの経済学説の解説書と言うよりも、フリードマンを総帥とする「現代シカゴ学派」がアメリカ経済学界を席巻していくプロセスを、「現代シカゴ学派」以前の(フリードマンの師であるナイトやヴァイナーらが率いた)「シカゴ学派」と対比しつつ描き出そうとしている。

これまで読んだことのある根井氏の著作*1と比べると、本書のできはいま一つ。全体のまとまりが悪く、異なる機会に書かれた文章を無理やり一冊の本に押し込んだかのような印象が強い。著者の力量をもってすれば、もっと深い議論が展開できたはずだ。個人的には、第4章「フリードマン以前の「シカゴ学派」――F・ナイトの「適度な懐疑主義」」の議論を一冊の本に拡張してもらいたいのだが・・・。

市場主義のたそがれ―新自由主義の光と影 (中公新書)

市場主義のたそがれ―新自由主義の光と影 (中公新書)

評価:★★★☆☆