乱読ノート ~出町柳から哲学の道へ~

イギリス思想史を研究する大学教員の読書ノートです。もともとは自分自身のための備忘録として設置したものですが、「隠れ名著、忘れられた名著に関する情報を学生の皆さんに発信したい」というささやかな期待もこめられています。

2005-09-01から1ヶ月間の記事一覧

広井良典『ケアを問いなおす』

4期ゼミの後期最初のテキスト。N君が選定。コンパクトなボディに似つかわしくない重厚な内容だ。3度読んだが読み返すたびに新しい発見があった。「老人ケア」「ターミナルケア」等々、今や「ケア」という言葉は日常の様々な場面で用いられており、超高齢化社…

永井均『ルサンチマンの哲学』

後期の「キノハチ研究会」*1でニーチェ『道徳の系譜』を読むことになっている。また、後期の4期ゼミでは宗教論を扱う予定だ。その準備として本書を手に取った。永井さんの本はしっくりくる時とこない時の差が大きい。『〈子ども〉のための哲学』は前者で、読…

見田宗介『現代社会の理論』

本書は名著としての評価をすでに確立している。amazon.co.jp のカスタマーレビューは5つ星(5点満点中4.75点)。同僚のMさん、Uさんからも本書に対する高い評価を聞いたことがある。かつてUさんは本書を基礎演習(1回生配当)のテキストとして使用されたとのこと…

三枝誠『整体的生活術』

整体に通いだしてから2ヶ月半。僕の生活は大きく変わった。身体が軽く楽に感じるようになっただけではない。世界の感じ方そのものが変わった。食べる、飲む、歩く、寝る、排泄するといった日常の当たり前の所作の一つ一つが、すごく大きな意味を帯び始めるよ…

リチャード・セネット『それでも新資本主義についていくか』

買ってから5年半も本棚で眠っていた。森岡さんの新著を読んで、この本のことを思い出し、遅まきながら読むことにした。原書は『人間性の腐食:新資本主義における労働の個人的帰結(The Corrosion of Character: The Personal Consequence of Work in the New…

広田照幸『教育不信と教育依存の時代』

広田照幸(東京大学大学院教育学研究科助教授、教育社会学・社会史専攻)さんは僕が最近もっとも注目・期待している研究者の一人だ。衒学趣味に走らない明快な論理と文体。それでいて彼の教育論は常に啓発的で挑戦的だ。しかもそれが地味な歴史研究に支えられ…

森岡孝二『働きすぎの時代』

同僚の森岡さんの新著。今日は脳みそが元気だったので、一日で一気に読み通すことができた。今や、「世界でもっとも豊かな(はずの)国」アメリカでも、「ゆったりと時間が流れる(はずの)国」イギリスでも、日本に劣らず過重労働や過労死が問題となっている。…

小川洋子『博士の愛した数式』

昨年のベストセラー*1を遅ればせながら今ごろになって読む。『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』を読んでいる時、自分と数字・数学との関わりに考えが及び、本書を思い出した。突発的に読みたくなった。家政婦として働く未婚の母の「私」。彼女の息子でタイ…

山田真哉『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』

今年3月に買っていたが、そのまま本棚に眠っていた。しかし、目下ベストセラー街道をばく進中。ついに100万部を突破。*1整体の先生も読んでいた。これだけ話題になっている以上、読まないわけにはいかなくなってきた。東京出張の際、新幹線の中で読んだ。公…

なだいなだ『神、この人間的なるもの』

著者は精神科医。無神論者であるB(著者)と、同じく精神科医でカトリック信者である大学時代の友人Tとの対話という形式をとっている。単純に読み物としておもしろいし、今まで読んだ宗教論の中ではいちばん共感できる内容だ。本書の核心をなすのは、以下の…

廣松渉『今こそマルクスを読み返す』

著者曰く、「本書は著者のマルクス研究のうち重要な部面のエッセンスをコンパクトにまとめたもの」(p.270)で、「学界・研究者たちのあいだで進行しつつある「読み返し」の一端を披露することによって、鞏固な既成観念となっている俗流的な“マルクスの思想”像…