乱読ノート ~出町柳から哲学の道へ~

イギリス思想史を研究する大学教員の読書ノートです。もともとは自分自身のための備忘録として設置したものですが、「隠れ名著、忘れられた名著に関する情報を学生の皆さんに発信したい」というささやかな期待もこめられています。

2008-05-01から1ヶ月間の記事一覧

岩井寛『森田療法』

著者は1986年にガンのために55歳の若さでこの世を去られた精神医学者である。本書は生前最後の作品で、口述筆記によって著された。すでに著者の身体は末期ガンに侵されており、腫瘍が全身に転移して神経を圧迫し、下半身はまったく動かなくなっていた。左耳…

和田秀樹『大人のケンカ必勝法』

タイトルに「ケンカ」という物々しい文字が躍るが、もちろん殴り合いのケンカに勝つ方法ではなく、サブタイトルにもあるように、特に会社内の(ビジネスマン人生における)「論争・心理戦」で勝ち(生き)残っていくためのテクニックを、主として心理学・精神医…

見田宗介『社会学入門』

前著『現代社会の理論』*1の続編と言ってよいだろう。僕は前著を「小さなボディーに似合わない本格的な理論書」と評したが、本書への評価もほぼ同様で、予備知識ゼロの読者に向けた「入門」書だとは認めがたい。著者によれば、大学で担当してきた社会学の「…

渡辺利夫『神経症の時代』

森田正馬(もりた・まさたけ、1874-1938)は、後に森田療法として知られることになる独自の療法を創始し、神経症者の治療に大きな功績を残した精神医学者である。本書は、神経症者倉田百三の苦闘(第1章)、森田の人間観と生涯(第2・3章)、孫弟子岩井寛の最期(第…

河合隼雄・南伸坊『心理療法個人授業』

イラストレーター&エッセイストの南伸坊さんを生徒役にして、河合隼雄先生が心理療法の個人レッスンを講じる。本書は、南生徒の書いたレポートと、そのレポートに対する河合先生のコメントから成り立っている。全13講。とにかく、文章が平易で、読みやすい。…

河合隼雄『こころの処方箋』

惜しまれつつ昨年7月に他界された日本を代表する心理学者・心理療法家によるエッセイ集。1章4ページのエッセイが55章収められている。僕のように、書くにつけ、話すにつけ、言葉を人並み以上に使う仕事をしていると、どうしても言葉を過信する方向に傾きがち…

北岡俊明『ディベート入門』

ディベートの入門書。Amazon.co.jpには辛口のレヴューが並んでいるが、僕の本書に対する評価はそこまで低くない。ディベートを「知の方法論」であり、「ホワイトカラーの生産性[=意思決定の生産性]を高めるための技術」だとする著者の立場に、僕は強い共感…

城繁幸『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか』

本書はもともと「Webちくま」連載「アウトサイダーズ 平成的生き方のススメ」を一書にまとめたものだが、タイトルからも想像できるように、前著『若者はなぜ3年で辞めるのか?』*1の続編としての性格も有している。前著が「昭和的価値(仕事)観」がもたらして…

井上孝代『あの人と和解する』

一人の人間の内部の葛藤、個人と個人の対立やもめごと、集団内での争い、集団と集団の抗争などミクロからマクロまで、さらには国家間の国家と市民社会の関係などメガレベルに至るまで、私たちの人生はさまざまなレベルでの「コンフリクト(=対立、紛争、もめ…

大塚久雄『社会科学の方法』

著者は昭和期日本を代表する西洋経済史家。カール・マルクスの経済学とマックス・ヴェーバーの社会学を基礎として、近代資本主義成立の諸条件を、とりわけ国民経済の担い手としての「中産的生産者層」に着目しつつ探求した。「大塚史学」と呼ばれるその学問…