乱読ノート ~出町柳から哲学の道へ~

イギリス思想史を研究する大学教員の読書ノートです。もともとは自分自身のための備忘録として設置したものですが、「隠れ名著、忘れられた名著に関する情報を学生の皆さんに発信したい」というささやかな期待もこめられています。

2010-02-01から1ヶ月間の記事一覧

神野直彦『地域再生の経済学』

ちょうど1年前の今頃、同僚SB先生(地域経済学)の学部ゼミで「地方工業都市の現状と課題」(卒論テーマ)について研究していたN本君を、ひょんなことから自分の院ゼミ生として受け入れることになった。以来、修論指導の関係で、地域経済学と(自分の専門で…

立岩真也・尾藤廣喜・岡本厚『生存権』

大学院時代の恩師の一人である中村健吾先生が編者を務められた社会思想史の教科書『古典から読み解く社会思想史』(ミネルヴァ書房)に、僕は「人間の権利は存在するのか?――バーク、ペイン」(第2章)と題する論考を寄稿した。*1「人権をテーマとした章を書…

香内三郎『ベストセラーの読まれ方』

著者はマス・コミュニケーション史を専攻する元東大教授。2006年2月に74歳で逝去。本書は近世・近代イギリス社会における活字メディアを主題とする。ジョン・フォックス『殉教者の本』、ロバァト・バートン『憂鬱の解剖』、スウィフト『ガリヴァー旅行記』、…

桑原耕司『社員が進んで働くしくみ』

岐阜県に本社を置く中堅ゼネコン(1988年創業、社員数約140名)「希望社」。本社ビルの正面には「談合しない。(21世紀型建設業)」と書かれた大きな垂れ幕が下がっている。著者は、「建築主に良い建築を安く提供する」という理念を実現するために、大手ゼネ…

城山三郎『彼も人の子 ナポレオン』

ナポレオンの生涯を描いた中編の評伝である。「あとがき」によれば、著者はナポレオンを「神の子」や「時代の子」として描くことに興味はなかった。「かねて気になる存在」であったこの人物の、「正体まで行かなくとも、ちらっとでも素顔を見てみたい」(pp.…

佐野眞一『東電OL殺人事件』

渋谷区円山町のラブホテル街に隣接したアパートの一室で、39歳の女性が絞殺された。このニュースが世間の興味を惹いたのは、被害者が慶応大卒業後に東京電力に入社するエリートコースを歩んでおり、殺害された当時には管理職の地位にあったにもかかわらず、…

三浦耕喜『ヒトラーの特攻隊』

新聞記者である大親友の初めての著書であり、ベルリン支局特派員時代の仕事の果実である。刊行直後に一度読んでいるが、このたび再読してみた。ナチス政権下のドイツにも日本の「カミカゼ」に類似した特攻隊組織が存在した。本国ドイツでも知られることの少…