乱読ノート ~出町柳から哲学の道へ~

イギリス思想史を研究する大学教員の読書ノートです。もともとは自分自身のための備忘録として設置したものですが、「隠れ名著、忘れられた名著に関する情報を学生の皆さんに発信したい」というささやかな期待もこめられています。

城山三郎『彼も人の子 ナポレオン』

ナポレオンの生涯を描いた中編の評伝である。「あとがき」によれば、著者はナポレオンを「神の子」や「時代の子」として描くことに興味はなかった。「かねて気になる存在」であったこの人物の、「正体まで行かなくとも、ちらっとでも素顔を見てみたい」(pp.266-7)とのこと。

著者は、ナポレオンの天性の「集中力」、「率いる」ことへの飽くなき執念を、それらと背中合わせの「幼児性」とともに描き出す。そして、「コルシカ」や「共和制」といった大義を衣裳同然に取り替えていく態度に慨嘆する。同じ著者が『わしの眼は十年先が見える』*1で描いた大原孫三郎の生涯とのコントラストがたいへん興味深い。

彼も人の子 ナポレオン―統率者の内側

彼も人の子 ナポレオン―統率者の内側

評価:★★★☆☆