乱読ノート ~出町柳から哲学の道へ~

イギリス思想史を研究する大学教員の読書ノートです。もともとは自分自身のための備忘録として設置したものですが、「隠れ名著、忘れられた名著に関する情報を学生の皆さんに発信したい」というささやかな期待もこめられています。

2008-06-01から1ヶ月間の記事一覧

河合隼雄『コンプレックス』

本書は昨年7月19日に79歳で惜しまれつつこの世を去られた臨床心理学の権威・河合隼雄さんが40代前半にお書きになった不朽の名著である。公刊以来35年以上の歳月が経過しているが、いまだに広く読み継がれている。「コンプレックス」という言葉は今では日常語…

國分康孝『カウンセリング心理学入門』

著者はわが国のカウンセリング心理学界をその黎明期からリードしてきたその道の第一人者で*1、本書はカウンセリングという援助活動(実践)を支えているカウンセリング心理学についての入門書である。臨床心理学との違いを強く意識しつつ、「人を援助するには…

石田衣良『眠れぬ真珠』

衝動買い、衝動読み。初めての石田衣良体験。45歳で更年期障害を抱えてしまった版画家咲世子と28歳のウェイター(実は新進映像作家)素樹との短いけれども濃密な愛の日々を綴った恋愛小説。Amazon.co.jpのレヴューでの評価はきわめて高かったが、僕には合わな…

吉岡秀子『セブン-イレブンおでん部会』

コンビニ王者「セブン-イレブン」の売上の7割強は食品が占めている。本書は「おいしさ」を飽くことなく追求するセブン-イレブンの商品開発の裏側をルポしたものである。「おにぎり」「メロンパン」「調理めん」「おでん」「サンドイッチ」「カップめん」「…

香山リカ『結婚がこわい』

香山リカさんは『・・・がこわい』というタイトルの本をすでに4冊公刊している。公刊順に記すならば、『就職がこわい』(講談社、2004年2月)、『結婚がこわい』(講談社、2005年3月)、『老後がこわい』(講談社現代新書、2006年7月)、『セックスがこわい』(筑摩…

諸富祥彦『〈むなしさ〉の心理学』

著者の名前は以前から知っていた。重松清編『教育とはなんだ』*1の中の「教員室―教師はいかにして疲れてしまうか」という章で重松さんの対談相手を務めておられるカウンセリング心理学者である。名前を知っていただけではなく、彼が主張する「トランスパーソ…

大平健『診療室にきた赤ずきん』

著者は精神科医。ゼミテキストとしてこれまで何度も使用してきた『やさしさの精神病理』の著者でもある。本書は「ねむりひめ」「赤ずきん」「つる女房」といった誰もが知っている物語(昔話・童話)を利用して治療に成功した十二の事例を紹介している。精神科…

ピーター・マサイアス『経済史講義録』

著者のピーター・マサイアス・オックスフォード大学名誉教授は、国際的に著名な経済史研究者である。僕が勤務する大学の経済学部および大学院経済学研究科はそのマサイアス教授を2006年9月に招聘研究員としてお迎えすることができた。本書は、一人でも多くの…

河合隼雄『カウンセリングを語る』(上)(下)

四天王寺人生相談所は、1960年代という早い時期から、年一回のペースでカウンセリング研修講座を開催していた。著者はその講座に毎回招かれ、講演を行った。本書はその講演の記録である。上下2冊に11本の講演が収録されている。カウンセリングと心理療法の理…

渡邉正裕『若者はなぜ「会社選び」に失敗するのか』

本書がいかなる性格を有する書物であるかについては、著者自身が「はじめに」で次のように簡明に語ってくれている。 完璧な会社などないので、20代・30代の社会経験の浅い若い人たちが会社選びに迷うのは当然だ。だが、必要以上にこうした「青い鳥症候群」に…