四天王寺人生相談所は、1960年代という早い時期から、年一回のペースでカウンセリング研修講座を開催していた。著者はその講座に毎回招かれ、講演を行った。本書はその講演の記録である。上下2冊に11本の講演が収録されている。
カウンセリングと心理療法の理論の実際を多様な角度から論じている。講演録という性格上、重複している内容も部分的に見られるが、基本的な問題――「聴く」「待つ」の重要性、「理解」「共感」の難しさ、命がけの仕事としてのカウンセリングなど――ほど繰り返し論じられている。校内暴力や家庭内暴力に走る青少年の心理が微細に描かれている件(上、第6章;下、第3・4章)が特に印象的だった。
著者自身が断っているように、本書はカウンセラーを志す人に限らず、教育・福祉・医療などの領域で何らかの意味で対人援助の仕事をしている人々にとっても、大いに役に立つ。僕自身、これまでの学生との関わり方を大いに反省させられ、今後の関わり方についての展望を得られた。「自分はこんなに頑張っている」という自己弁護に陥る(逃避する)危険性を肝に強く銘じておきたい。これまでの僕の人生観・世界観・仕事観は本書によって大きく揺さぶられている。
みなさん、クライエントの気持ちというのも、わかってほしいんですが、クライエントというのは非常にたいへんなんです。自分で変わっていくということは、すごくたいへんでして、カウンセラーももちろんですが、カウンセラー以上にクライエントというのはたいへんでしょう。(下、p.192)
- 作者: 河合隼雄
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