乱読ノート ~出町柳から哲学の道へ~

イギリス思想史を研究する大学教員の読書ノートです。もともとは自分自身のための備忘録として設置したものですが、「隠れ名著、忘れられた名著に関する情報を学生の皆さんに発信したい」というささやかな期待もこめられています。

2008-01-01から1ヶ月間の記事一覧

中野民夫『ファシリテーション革命』

かれこれ4年ほど、本業の経済思想史研究と並行して、ビジネス倫理の研究に従事して(させられて?)いる。はじめのうちは、どこから手をつけてよいのやら、まったく見当がつかなかったが、企業不祥事をいろいろと追いかけるうちに、不祥事を誘発しやすい組織文…

ヤン・カールソン『真実の瞬間』

すでにレヴューした小笹芳央『会社の品格』*1に以下のような逸話が紹介されていて僕はとても強い感銘を受けた。 仕事の使命感について語るとき、こんな逸話がよく語られます。あるとき街を歩いていた旅人が、石を積んでいる職人に聞きました。「あなたは何を…

日経CSRプロジェクト編『CSR 働く意味を問う』

日経CSRプロジェクトから刊行される3冊目の書籍だが、一冊目『CSR 企業価値をどう高めるか』、二冊目『CSR 「働きがい」を束ねる経営』よりも結果的に先に読むことになった。本書は、プロジェクト参加企業(オムロン、佐川急便、住友林業、東京海上日動火災保…

産経新聞取材班『ブランドはなぜ墜ちたか』

本書は産経新聞における連載記事「ブランドはなぜ墜ちたか」(2000年8月〜11月)を一書にまとめたものである。2000年に発生した3つの企業不祥事――雪印乳業の集団食中毒事件、大手百貨店そごうの経営破綻、三菱自動車工業のリコール隠し――が取材の対象となって…

伊藤修『日本の経済―歴史・現状・論点』

新書サイズの日本経済論の概説書・入門書で、1回生配当科目「日本経済入門」のテキストとして使用した。以下のような全12章から構成され、前半(第5章まで)が主として経済史に、後半(第6章から)が主として現状分析と政策提言に充てられている。 序章 日本経済…

國廣正・五味祐子『なぜ企業不祥事は、なくならないのか』

コンプライアンス(法令順守)経営およびCSR(企業の社会的責任)経営に関する入門書としては、現時点での決定版と言えるのではないか。それほどまでに素晴らしい内容を誇っている。二人の著者は企業法務を専門とする弁護士として、数多くの企業不祥事の解決に携…

ドストエフスキー『死の家の記録』

著者は、言わずとも知れた、ロシアの文豪。本書は著者自身の獄中体験――1850年から53年までシベリアのオムスク要塞監獄にて政治犯として服役し強制労働に従事させられていた――の記録にもとづいて書かれたものであり、彼の名を世界的にした出世作である。物語…

養老孟司『超バカの壁』

ベストセラー『バカの壁』の続編だが、あまりに面白くて一気に(3時間ほどで)読み終えてしまった。書かれていることの大半にすんなり共感できるのだ。ところが「乱読ノート」を調べてみて驚いた。『バカの壁』は2003年8月に読んだらしいのだが、僕の評価はき…

樋口陽一『一語の事典 人権』

「さすが樋口陽一!」と唸ってしまう隠れ名著。この人の本はいつもすごいが、この本は特にすごい。120ページ余りの小スペースに、「人権」という言葉が抱える様々な問題が実にコンパクトにまとめられている。著者が繰り返し力説しているのが、「いちばん厳格…