乱読ノート ~出町柳から哲学の道へ~

イギリス思想史を研究する大学教員の読書ノートです。もともとは自分自身のための備忘録として設置したものですが、「隠れ名著、忘れられた名著に関する情報を学生の皆さんに発信したい」というささやかな期待もこめられています。

2008-01-01から1年間の記事一覧

横山泰行『ドラえもん学』

7期生T本さんがゼミテキストとして選んだくれたもの。ドラえもんが国民的マンガ(さらには世界的マンガ)へと成長していった軌跡を、作品のあらすじの紹介を盛り込みながら解説している。 ゼミの報告自体は、のび太とドラえもんの関係を「甘える-甘やかす」…

ロバート・D・パットナム『孤独なボウリング』

共和主義思想史研究*1に携わっていると、どうしても徳倫理学やコミュニタリアニズム(共同体主義)の研究成果を無視するわけにはゆかない。僕が本書を知ったのは、遅まきながら、菊池理夫『日本を甦らせる政治思想――現代コミュニタリアニズム入門――』*2を通…

井口泰『外国人労働者新時代』

今学期の「基礎演習(ディベート入門)」(2回生配当)は、同僚・浜野教授とのダブル・ティーチングという初めての試みに挑戦している。履修者全体を2クラス4班に分けて、前半と後半で指導するクラスを交替する。通常の授業(練習)はクラス単位で行われ…

鈴木謙介『カーニヴァル化する社会』

著者は1976年生まれの若手社会学者。本書は2005年、29歳の時の著作である。本書に対しては驚くべき数の書評がネット上にアップされている。門外漢である僕が書くべきことはほとんど何も残されていないような気がしてならない。自分自身のためのメモとして、…

磯村健太郎『〈スピリチュアル〉はなぜ流行るのか』

基本的には宗教社会学的観点からのサブカル分析本と言えそうだが、僕は本書を社会経済学・宗教経済学の世界への格好の入門書として読んだ。ブログ、mixi、ネット恋愛、平原綾香「Jupiter」、秋山雅史「千の風になって」、江原啓之「オーラの泉」、中村うさぎ…

高砂浦五郎『親方はつらいよ』

朝青龍、渾身の反省文つき 「親方、本当に申し訳ありませんでした!」 こんな帯の惹句に釣られて衝動買い。出版社の仕掛けた罠に引っかかってしまった。著者の高砂親方*1は、僕が子ども時代に絶大な人気を誇った元大関・朝潮。タレント本を読むような軽い気…

クシシトフ・ポミアン『増補・ヨーロッパとは何か』

著者はフランスで活躍しているポーランド出身の歴史家である。本書は、進行中のヨーロッパ統合を強く意識しながら、古代ローマから第一次世界大戦までのヨーロッパ世界〈分裂〉と〈統合〉を概観している。著者によれば、過去にヨーロッパ統合と呼びうる事態…

米盛裕二『アブダクション』

経済学方法論史をテーマとする共同研究に関わっている関係で、帰納と演繹との関係についての理解を深める必要が生じ、本書を手に取った。共同研究のリーダーであるHKD大のSSKさんが薦めてくださった本である。科学的(論理的)な思考(推論)の方法と…

佐藤真海『夢を跳ぶ』

川北稔『砂糖の世界史』、岩田靖夫『ヨーロッパ思想入門』、遅塚忠躬『フランス革命』など、「岩波ジュニア新書」のラインナップには専門的研究者ですら思わず唸ってしまうような碩学による啓蒙的名著が数多く含まれている。僕自身、その多大な恩恵を受けて…

まもなく更新再開

単著執筆が一段落しましたので、近日中に更新を再開する予定です。ゆっくり更新してゆきますので、気長にお待ち下さい。

更新一時停止

単著執筆に集中するため、しばらくの間、更新を停止させていただきます。

岡崎晴輝・木村俊道編『はじめて学ぶ政治学』

タイトル通り、初学者(学部下位年次生)向けの政治学入門書(教科書)である。政治学史上の古典・名著を紹介する形式をとりながら、政治学の基本概念を一通り学べるような工夫が施されている。「権力」「公共性」「ナショナリズム」「官僚制」など、全27章から…

デヴィッド・ドゥグラツィア『動物の権利』

すでに採りあげたスティーガー『グローバリゼーション』*1と同じく、オックスフォード大学出版会の「一冊でわかる」シリーズ(very short introductionシリーズの日本語版)の中の一冊である。『グローバリゼーション』と同じく、いかにも教科書的な叙述で、退…

泉流星『僕の妻はエイリアン』

オーストラリア出張前に書店でたまたま目に留まって購入し、出張先に持参した。帰りの飛行機の中で読み始めたら、あまりに面白くて、そのまま一気に最後まで読んでしまった。本書は高機能自閉症者の「妻」と普通の人である「夫」とのちぐはぐな夫婦生活をユ…

井上一馬『「マジっすかぁ?」を英語で言うと』

オーストラリア出張(7月7〜13日)の際に持参して、暇を見つけるたびに読んでいた。日本の大学(生)とオーストラリアの大学(生)との文化的な違いなどについて現地の研究者と話そうとする時、つい使いたくなる便利な表現が厳選されていて、とても助かった。「い…

河合隼雄『無意識の構造』

同じ著者による『コンプレックス』*1の姉妹書と言ってよいもので、前半は『コンプレックス』の圧縮版となっている。ただ、力点の置かれ方が違っていて、本書ではコンプレックスにはわずかしか触れられず、普遍的無意識(元型)に後半の多くのページが割かれて…

エーリッヒ・フロム『愛するということ』

僕が担当している学部ゼミでは、ここ数年、「脱常識の社会経済学――あたりまえを問いなおす――」をテーマに掲げてゼミ生を募集している。ゼミの募集要項には以下のように記してある。「なぜ勉強しなければならないのか? 大学で何を学ぶべきなのか? 何のため…

河合隼雄『コンプレックス』

本書は昨年7月19日に79歳で惜しまれつつこの世を去られた臨床心理学の権威・河合隼雄さんが40代前半にお書きになった不朽の名著である。公刊以来35年以上の歳月が経過しているが、いまだに広く読み継がれている。「コンプレックス」という言葉は今では日常語…

國分康孝『カウンセリング心理学入門』

著者はわが国のカウンセリング心理学界をその黎明期からリードしてきたその道の第一人者で*1、本書はカウンセリングという援助活動(実践)を支えているカウンセリング心理学についての入門書である。臨床心理学との違いを強く意識しつつ、「人を援助するには…

石田衣良『眠れぬ真珠』

衝動買い、衝動読み。初めての石田衣良体験。45歳で更年期障害を抱えてしまった版画家咲世子と28歳のウェイター(実は新進映像作家)素樹との短いけれども濃密な愛の日々を綴った恋愛小説。Amazon.co.jpのレヴューでの評価はきわめて高かったが、僕には合わな…

吉岡秀子『セブン-イレブンおでん部会』

コンビニ王者「セブン-イレブン」の売上の7割強は食品が占めている。本書は「おいしさ」を飽くことなく追求するセブン-イレブンの商品開発の裏側をルポしたものである。「おにぎり」「メロンパン」「調理めん」「おでん」「サンドイッチ」「カップめん」「…

香山リカ『結婚がこわい』

香山リカさんは『・・・がこわい』というタイトルの本をすでに4冊公刊している。公刊順に記すならば、『就職がこわい』(講談社、2004年2月)、『結婚がこわい』(講談社、2005年3月)、『老後がこわい』(講談社現代新書、2006年7月)、『セックスがこわい』(筑摩…

諸富祥彦『〈むなしさ〉の心理学』

著者の名前は以前から知っていた。重松清編『教育とはなんだ』*1の中の「教員室―教師はいかにして疲れてしまうか」という章で重松さんの対談相手を務めておられるカウンセリング心理学者である。名前を知っていただけではなく、彼が主張する「トランスパーソ…

大平健『診療室にきた赤ずきん』

著者は精神科医。ゼミテキストとしてこれまで何度も使用してきた『やさしさの精神病理』の著者でもある。本書は「ねむりひめ」「赤ずきん」「つる女房」といった誰もが知っている物語(昔話・童話)を利用して治療に成功した十二の事例を紹介している。精神科…

ピーター・マサイアス『経済史講義録』

著者のピーター・マサイアス・オックスフォード大学名誉教授は、国際的に著名な経済史研究者である。僕が勤務する大学の経済学部および大学院経済学研究科はそのマサイアス教授を2006年9月に招聘研究員としてお迎えすることができた。本書は、一人でも多くの…

河合隼雄『カウンセリングを語る』(上)(下)

四天王寺人生相談所は、1960年代という早い時期から、年一回のペースでカウンセリング研修講座を開催していた。著者はその講座に毎回招かれ、講演を行った。本書はその講演の記録である。上下2冊に11本の講演が収録されている。カウンセリングと心理療法の理…

渡邉正裕『若者はなぜ「会社選び」に失敗するのか』

本書がいかなる性格を有する書物であるかについては、著者自身が「はじめに」で次のように簡明に語ってくれている。 完璧な会社などないので、20代・30代の社会経験の浅い若い人たちが会社選びに迷うのは当然だ。だが、必要以上にこうした「青い鳥症候群」に…

岩井寛『森田療法』

著者は1986年にガンのために55歳の若さでこの世を去られた精神医学者である。本書は生前最後の作品で、口述筆記によって著された。すでに著者の身体は末期ガンに侵されており、腫瘍が全身に転移して神経を圧迫し、下半身はまったく動かなくなっていた。左耳…

和田秀樹『大人のケンカ必勝法』

タイトルに「ケンカ」という物々しい文字が躍るが、もちろん殴り合いのケンカに勝つ方法ではなく、サブタイトルにもあるように、特に会社内の(ビジネスマン人生における)「論争・心理戦」で勝ち(生き)残っていくためのテクニックを、主として心理学・精神医…

見田宗介『社会学入門』

前著『現代社会の理論』*1の続編と言ってよいだろう。僕は前著を「小さなボディーに似合わない本格的な理論書」と評したが、本書への評価もほぼ同様で、予備知識ゼロの読者に向けた「入門」書だとは認めがたい。著者によれば、大学で担当してきた社会学の「…