乱読ノート ~出町柳から哲学の道へ~

イギリス思想史を研究する大学教員の読書ノートです。もともとは自分自身のための備忘録として設置したものですが、「隠れ名著、忘れられた名著に関する情報を学生の皆さんに発信したい」というささやかな期待もこめられています。

2008-03-01から1ヶ月間の記事一覧

北杜夫『マンボウ恐妻記』

実は1年前に読んでいたのだが、軽く読み流してしまったこともあり、その時は「乱読ノート」で採りあげなかった。しかし、ここ数ヶ月、「心の病気」関連の話題に強い興味を持っており、その絡みで再読したので、レヴューすることにした。本書は作家北杜夫が奥…

夏樹静子『腰痛放浪記 椅子がこわい』

人気推理小説家である著者は、1993年1月から約3年間、原因不明の腰痛に悩まされた。その痛みはあまりに激しく、時には死まで思い浮かべた。本書はその闘病記である。骨・筋肉・神経といった身体器官の不調が腰痛の原因ではなかった。「作家夏樹静子のステー…

田中宏『在日外国人 新版』

著者はもともとアジア文化会館という留学生の世話団体に勤務していた。その後、愛知県立大学、一橋大学で教鞭をとり、現在は龍谷大学教授を務めている。日本アジア関係史、在日外国人問題、ポスト植民地問題の権威である。本書は在日外国人が抱えている様々…

夏樹静子『心療内科を訪ねて』

前々から読みたかった本。ようやく読む時間と機会を得た。素直にうれしい。著者は推理小説界の大御所的存在。原因不明の腰痛を患って3年間の地獄のような日々を過ごし、心療内科での治療によってそれが完治したという経験を持つ。本書は(著者自身を含む)15人…

五木寛之『人間の関係』

著者の五木寛之さんについて僕はほとんど何も知らない。彼の作品は小説もエッセイもこれまで読んだことがない。唯一の例外として、哲学者・廣松渉さんとの対談集『哲学に何ができるか』をずいぶん前(記録では2002年2月)に読んだだけである。そんな五木さんの…

清水正徳『働くことの意味』

著者は宇野派のマルクス主義哲学者。本書は西洋思想における労働観の系譜を古代から現代までたどり*1、その思想的遺産の現代的意義を明らかにしようとする。宇野派のマルクス解釈に忠実に、資本主義社会における様々な矛盾の根本原因が労働力商品化に求めら…

浜林正夫『人権の思想史』

著者はイギリス市民革命史研究の大家。人権思想の中核に「どんな人にも生きる権利がある」という考え方を求め、その成立と展開を歴史的にたどっている。本書の内容については、目次をそのまま掲げるほうが、それをイメージしてもらいやすいだろう。 人権思想…

マーク・フィルプ『トマス・ペイン』

トマス・ペインの生涯と思想に関する入門書であり、オックスフォード大学のPast Mastersシリーズの一冊として刊行されたもの(原著の刊行は1989年)の邦訳である。*1一応、入門書であるが、ヒッチンス*2と比べると、本書のレベルのほうがやや高い。訳文は流麗…

渋谷秀樹『憲法への招待』

「立憲主義と人権に関する入門書シリーズ」の三冊目。前の二冊とは正反対で、リベラル左派的な立場が前面に押し出されている。自衛隊、靖国神社、教科書検定、通信傍受法といったクリティカルなトピックに対しては、当然のことながら、いかにもその立場から…

長尾龍一『憲法問題入門』

「立憲主義と人権に関する入門書」シリーズ。二番目に読んだのが本書である。戦後日本憲法学は「初めに国家悪ありき」という根本的に間違った前提から出発しており、マルクス主義的な偏向が顕著であると、著者は繰り返し批判している。その意味では、本書に…