「立憲主義と人権に関する入門書」シリーズ。二番目に読んだのが本書である。
戦後日本憲法学は「初めに国家悪ありき」という根本的に間違った前提から出発しており、マルクス主義的な偏向が顕著であると、著者は繰り返し批判している。その意味では、本書に保守派の論調が認められないわけではない。しかし、本書の真価をそこに認めるべきではない。
扱われている論点は八木秀次『反「人権」宣言』よりはるかに多岐にわたり、『憲法問題入門』の名に違わない広がりと深みを兼ね備えている。外国人・女性・弱者・少数者の権利問題についても十分な目配りがなされており、八木の議論と比べると、かなりリベラルな印象を受ける。とりわけ、天皇の人権(p.102)、秘密投票制(p.134)、行政訴訟(p.160)に対するクールな議論は、僕の心に驚嘆を呼び起こした。反左翼思想、保守思想の独り歩き(独善)への警戒も怠っておらず、保守/リベラルの二項対立を超えた「絶妙のバランス感覚」が見られる。きわめて個性的で知的刺激に満ちた一冊だと高く評価したい。
なお、関西大学創設者の一人である児島惟兼についてのエピソード(p.162)は、恥ずかしながら、本書を通じて初めて知った。
- 作者: 長尾龍一
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 1997/09
- メディア: 新書
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