乱読ノート ~出町柳から哲学の道へ~

イギリス思想史を研究する大学教員の読書ノートです。もともとは自分自身のための備忘録として設置したものですが、「隠れ名著、忘れられた名著に関する情報を学生の皆さんに発信したい」というささやかな期待もこめられています。

2009-01-01から1年間の記事一覧

佐和隆光『経済学とは何だろうか』

学部生時代に読んで以来、およそ20年ぶりの再読になる。著者の本来の専門は計量経済学・統計学だが、今日では環境経済学者あるいは経済評論家としての顔のほうが有名であろう。本書は、科学論(とりわけトマス・クーンのパラダイム論)の視点から、戦後アメ…

中山康樹『これがビートルズだ』

ビートルズが公式に残した(現役時代にレコーディングし発表した)全作品、213曲を解説したもの。何よりも印象に残るのは、ジョン・レノンに対する手厳しい評価であろう。ジョンの熱狂的なファンであれば、憤慨するのではないか。かいつまんで書くと、こんな…

桜井哲夫『〈自己責任〉とは何か』

1998年以来、11年ぶりに再読した。記憶が怪しくなっているが、初読時にはかなり好意的な印象を持ったように思う。当時個人的に強い関心を抱いていた援助交際問題に対して、きわめて明快な解答を提出してくれていて、腑に落ちたのである。しかし、今回読み返…

奥井真紀子・木全晃『ヒットの法則2』

8期ゼミのテキスト。T田さん選定。本書は『日経トレンディ』の連載「ヒットの軌跡」(2006年11月号〜2009年6月号)を書籍化したもので、不況の時代にもかかわらず消費者に強く支持されたヒット商品20点の開発の舞台裏がレポートされている。採り上げられて…

橋本治『「わからない」という方法』

自分の頭で考える方法を教えるのは難しい。もともと「まなぶ」は「まねぶ」である。したがって、「教える」すなわち「真似をさせる」ということになる。「走る」とか「投げる」であれば、「ほら、こういうふうに」と実演して見本を示すことができるが、「考…

浅野ヨシオ『たった1通で人を動かすメールの仕掛け』

8期生S村君がゼミのテキストとして選んできたもの。まず表紙と帯に書かれている惹句の派手さに圧倒される。さすがBIG tomorrowの青春出版社だ。「ビジネス、人脈づくり、婚活・・・これで落ちない人はいない!」「それ反則! ・・・だけど、うまい!!」「マ…

カール・ポランニー『経済と文明』

本書は、経済史・経済人類学・経済体制論といった分野で不滅の業績を残した経済学者カール・ポランニー(1886〜1964)の遺著である。大学院(修士課程)の授業のテキストとして輪読した。18世紀西アフリカのダホメ王国は、奴隷貿易を通じてヨーロッパ資本主…

篠原一『市民の政治学』

バーバー『〈私たち〉の場所』 *1を読んで、市民社会(論)への関心が一気に膨らんだ。もっと勉強したくなり、そこでたまたま手に取ったのが本書である。著者はヨーロッパ政治史研究の重鎮の一人である。本書は市民社会を強化するための新しい市民参加のあり…

ベンジャミン・R・バーバー『〈私たち〉の場所』

新しい市民社会論のマニフェスト! 自信をもってオススメしたい一冊だ。本書を読んで以来、僕は保守主義者&コミュニタリアンであるのみならず市民社会論者でもあることを自覚し、公言するようになった。自らの読書史上・思想形成史上きわめて重要な一冊であ…

齋藤孝『恋愛力』

8期ゼミのテキストとして読んだ。うちのゼミの女子は恋愛論が大好きなのだ(苦笑)。本書の構成は以下のようになっている。 プロローグ 「恋愛力」は「コメント力」である 第1章 「恋愛力」は、なぜ必要か 第2章 村上春樹作品にみるドライ&クールな「恋愛力…

城山三郎・内橋克人『「人間復興」の経済を目指して』

作家・城山三郎(1927-2007)と経済評論家・内橋克人(1932- )との対談集。対談そのものは、2001年秋から2002年初春にかけて3回行われ、雑誌『論座』に掲載された。それが2002年4月に単行本としてまとめられ、2004年10月には文庫化された。僕が読んだのは文…

辻井喬『新祖国論』

辻井喬(堤清二)は、日野啓三と並んで、学生時代に最も惚れこんだ作家で、かつては新作が出るたびに貪るように読んでいた。僕にとって、日野作品のいちばんの魅力が、(無意識をも含めた広い意味での)意識の流れを言語化しようとする真摯で執拗な営みにあ…

木村雄一『LSE物語』

これも頂きもの。落手してから3か月以上が過ぎてしまったが、夏休みを利用して、ようやく読み終えることができた。ケンブリッジやオックスフォードと並ぶイギリスの社会科学系名門大学LSE(London School of Economics and Political Scinece)。オックスブ…

ロバート・ダーントン『パリのメスマー』

前々から読みたくてたまらなかった。ようやく読む機会を得た。本書の概要は冒頭の一節に端的に表現されているので、それをまず引用しておこう。 ルソーの『社会契約論』〔1762年刊〕は、フランスの大革命以前には彼の著作中でもっとも評判の低いものであった…

佐伯啓思・柴山桂太編『現代社会論のキーワード』

頂きもの。落手してから3か月近くが過ぎてしまったが、夏休みを利用して、ようやく読み終えることができた。本書はポスト冷戦時代の現代社会を考えるうえで不可欠な15のキーワード――「新自由主義(ネオリベラリズム)」「ネオコン」「第三の道」「リベラル・…

黒川伊保子・岡田耕一『なぜ、人は7年で飽きるのか』

5月14日・28日の8期(3回生)ゼミでテキストとして使用したが、その後3か月以上も「乱読ノート」で採り上げられないままだった。その最大の理由は、本書が「トンデモ本」なのか否か、見極められずにいたから。このたび読み直してみたものの、やはりまだ見極…

新村美希『百貨店ガール』

日本橋高島屋ご案内係リーダーの奮闘記。自分が客として百貨店を訪れる際には当たり前に感じがちな彼女たちのサービスが、どれだけ涙ぐましい地道な日々の努力によって培われているかがよくわかる。どんな本でもそうだが、読むタイミングは大切だ。本書はと…

松原隆一郎『失われた景観』

僕は(エドマンド・バークに代表される)西洋保守思想を(経済思想史との関わりで)かれこれ十数年にわたって研究してきた。しかし、いざ「なぜ保守思想を研究するのですか?」「保守思想のどこに惹かれるのですか?」と問われると、答えに窮するところがあ…

ラース・マグヌソン『重商主義』

刮目の書。訳者のお一人であるK谷先生から賜った。感謝。まず、通俗的な重商主義理解を確認しておきたい。本書の内容は通俗的な重商主義像(およびそれをめぐるその後の研究状況)に対して根本的反省を迫っているからである。アダム・スミスは、『国富論』第…

松原隆一郎『金融危機はなぜ起きたか?』

本書も前著『経済学の名著30』*1同様に著者ご本人から賜った。感謝。著者自身が「まえがき」で書いているように、本書は前著の応用編として、経済思想史から眺めてみた金融危機と日本経済の光景を描こうとするものである。本書を構成する4つの章はもともと独…

松原隆一郎『経済学の名著30』

著者ご本人から賜った。感謝。経済学史上の名著・代表的理論を解説した本はすでに数多く出版されているが、本書は類書と一線を画す個性を放っている。論壇で現代社会に対する活発な発言を続けてきた著者らしく、経済理論を初学者にもわかりやすく解説する際…

山田昌弘・白河桃子『「婚活」時代』

今や日本中のほとんど誰もが知っている流行語「婚活」。そのきっかけとなったのが本書である。十数万部を数えるベストセラーとなっている。法政大学後藤ゼミとの合同ゼミで、法政さんのプレゼンのテーマが「婚活」だったために、予習を兼ねて手に取った次第…

関満博『現場主義の知的生産法』

地域産業論・中小企業論を専門とする著者が、フィールドワークの技法を説き明かす。「知的生産法」というタイトルはミスリードかもしれない。本書の力点は技法そのものにはない。著者が繰り返し力説するのは、地域(現場)への愛情である。現地調査は決して…

矢吹晋『文化大革命』

オーストラリア出張の復路フライトで一気に読んだ。現代中国を語ろうとする際に避けては通れない「文化大革命」(1966〜76)の理想と現実が、コンパクトにまとめられている。中国史の勉強を再開してから日が浅いし、もともと持っていた知識も学部レベルの域…

城山三郎『無所属の時間で生きる』

オーストラリア出張の往路フライトで一気に読んだ。我が国の経済小説のパイオニアによるエッセイ集。収録されている36本のエッセイは、「無所属の時間を生きる」というタイトルで、雑誌『一冊の本』(朝日新聞社)に連載されたもの(1996年4月号〜1999年3月…

毛沢東『毛沢東語録』

周知のように、文化大革命は毛沢東思想を理論的支柱としている。その思想(革命精神)を国民一人一人が反復学習によって身につけるために、毛沢東の言葉(格言・警句・名言など)がテーマ別に一書にまとめられた。それが本書である。文化大革命時代の映像で…

藤子不二雄A『劇画 毛沢東伝』

毛沢東の波乱に満ちた半生(1949年の中華人民共和国建国まで)を劇画化したもの。作者はあの藤子不二雄Aである。もともとは1970年から71年にかけて『週刊漫画サンデー』に連載・単行本化されたもので、2003年に約30年ぶりに復刻された。1970年と言えば、毛…

三浦展『「家族」と「幸福」の戦後史』

今ではベストセラー『下流社会』の著者として有名なマーケティング・アナリストの比較的初期(10年前、1999年)の作品である。アメリカ的豊かさの象徴たる「郊外」的なライフスタイルと価値観が戦後(高度経済成長)期日本にどのように普及し動揺したのかを…

古厩忠夫『裏日本』

本書に関しては、amazon.co.jpの読者レヴューの質が非常に高くて、それ以上付け加えるべきことがほとんど思い浮かばない。ぜひそれらを参照してもらいたい。それらと内容的に重なってしまうけれども、自分のためのメモを残しておくことにする。本書は、新潟…

諸富祥彦『孤独であるためのレッスン』

8期ゼミのテキスト。本書が選ばれたそもそものきっかけは、8期生HYSさんが「『ランチメイト症候群』をテーマにゼミをやってみたい」と提案してきたこと。「ランチメイト症候群」とは、お昼を一緒に食べる相手がいないと、その孤独に耐えられず、恐れや不安を…