乱読ノート ~出町柳から哲学の道へ~

イギリス思想史を研究する大学教員の読書ノートです。もともとは自分自身のための備忘録として設置したものですが、「隠れ名著、忘れられた名著に関する情報を学生の皆さんに発信したい」というささやかな期待もこめられています。

山田昌弘・白河桃子『「婚活」時代』

今や日本中のほとんど誰もが知っている流行語「婚活」。そのきっかけとなったのが本書である。十数万部を数えるベストセラーとなっている。法政大学後藤ゼミとの合同ゼミで、法政さんのプレゼンのテーマが「婚活」だったために、予習を兼ねて手に取った次第である。

2人の著者のうちの1人は、「パラサイトシングル」「希望格差社会」といった流行語の生みの親として知られる家族社会学者・山田昌弘氏で、もう1人の著者は少子化ジャーナリスト・白河桃子氏である。内容は新書の中でもかなり軽い部類に属する。2、3時間もあれば通読できる(だからこそ売れたのだろう)。「なるほど!」と手を打つような深みのある議論は、残念ながら展開されていない。

戦後から1990年ごろのバブル経済期までは、学校に入れば就職は自動的に付いてくるものだった。就職に一定の「枠」があったおかげで、大多数の人は大きな努力なしに就職ができた。しかし、バブル崩壊後の1990年代に入ってから、就職に関する規制緩和が進んだために、就職をするためには、学校の斡旋を待つだけではダメで、個人が意識的に就職のための活動をしなければならなくなった。

「仕事(職)」を持つことと並ぶ人生の2大イベントである「結婚」についても、ほとんど同様の変化が生じていた。男女交際に関する規制緩和(職場と見合いによる斡旋の縮小、「恋愛=結婚」「男性は仕事・女性は家事」といった価値規範の動揺)が進んだために、結婚をするためには、個人が意識的に結婚のための活動をしなければならなくなった。「婚活」(結婚活動)という語が「就活」(就職活動)という語になぞらえて命名されたゆえんである。

本書の過半は、具体的な「婚活」の方法と各種サービスの賢い利用法について述べられているが、あまりにも俗っぽい内容なので、それらについてここでは触れない。社会科学的な観点から興味深かったのは、本書が取り上げている現実(結婚の困難さ)が、「規制緩和(自由化)」のパラドクスを端的に示している点である。

就職にしろ結婚にしろ、自由化が起これば思いどおりにならなくなる、というパラドクスです。
選択肢が増えれば増えるほど、自分の思い描いた選択ができなくなる。その結果が現在の急速な晩婚化、非婚化の進展となって現われているわけです。(p.18)

昨今の日本が直面している少子化問題については、非婚化・晩婚化が根本的な原因であるのに、なぜか政治は「結婚支援」ではなく「子育て支援」ばかりを叫んでいる。何だかボタンをかけ違っている気がするぞ。

評価:★★☆☆☆