著者は元毎日新聞中国総局長で、現在獨協大学外国語学部教授。本書はそんな著者が中学・高校・大学初年次生向けに書いた「現代中国論」(著者の担当科目)の入門書である。中国における愛国主義(反日?)教育の現状の報告を基軸としながら、中国の近現代史や今日の中国が直面する民主化問題・格差問題などを手際よくまとめている。
新聞記者出身だけあって、筆致は冷静・公平・丁寧であるが、「報告」以上の「分析」的視点が希薄なため、全体の印象は淡泊である。すらすらと読み進められるぶん、「なるほど!こういう見方もあったのか!」という知的興奮に乏しい。そこにもの足りなさを覚える。
もっとも、これは「ないものねだり」な感想なのかもしれない。「どうして中国の人は、日本をこんなにも嫌いになったのだろうか」(p.5)という問いかけから本書が始められているのも、「社会主義とは・・・」(p.95)といったやや丁寧すぎる説明文が加えられているのも、著者が自分の教えている学生と同じ目線に立とうと努めているからであろう。最近の学生の活字離れ(嫌い)を念頭に置きつつ、本書の編集方針においては、読者に知的興奮を誘発することよりも、読者を途中で躓かせないこと(そのための細やかな配慮)のほうが優先されたのかもしれない。*1このように考えると、大学1年次生に読ませる本としてはとてもよくできている。
本書の結論部分を紹介しておく。著者によれば、「中国人の対日感情を変えるカギ」は「中国の民主化」にある(p.184)。しかし、
私個人は、中国はまだ経済成長を続けるものの、ここしばらく超大国にもなれず、民主国家にもなれず、かといって崩壊もせず、不可思議な存在として膨張してゆくと思っています。
・・・中国がいずれ民主化してくれればよいのですが、いまの中国共産党指導部に、そういった考えはないようです。
・・・[中国は、]むしろ・・・より強権的になる可能性が強いでしょう。
・・・[日本は、]したがって、ある程度まで過去の発想を捨てて、この複雑な大国とのつきあい方を練り直す必要があるでしょう。
・・・戦後の日本は、二度と戦争を起こさないことを誓い、民主主義体制を築きながら、経済成長を実現させました。中国を相手にしても、民主主義という価値観を軸に、自分たちの取るべき行動を考えていくべきなのだろうと思います。(pp.188-93)
蛇足ながら、アヘン戦争勃発(1940)がマルサスの死去(1834、新救貧法制定の年でもある)の6年後であった事実に今さらながら気づかされた。イギリスの「長い18世紀」が終わるとともに、中国の「百年における恥辱」(p.50)が始まるわけだ。
- 作者: 上村幸治
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2006/03/22
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