タイトル通り、中・高校生向けに書かれた中国史の概説書である。古代黄河文明から人民中国(江沢民政権)にいたるまでの六千年の歴史が文庫本一冊の中にコンパクトにまとめられている。これはほとんど力技と言ってもよいだろう。
高校世界史の参考書と違って、近代史(特に日本との関係)を非常に重視した構成になっている。全体で260ページ余りなのだが、ほぼ真ん中、138ページに「中国革命の父」孫文が登場する。この大胆な構成の採用は成功であると言える。*1
ただ、「中・高校生向け」であることを重視すると、歴史地図がもっと多く掲載されて良かったし(名前だけ出てきて位置がわからない都市はフラストレーションの素である)、難しい漢字(人名・地名)にはルビが付されるべきだったように思う。また、叙述が共産党(毛沢東)に甘すぎ、国民党(蔣介石)と日本に辛すぎるように感じられた。後者については、本書の底本の刊行が1991年であったことの時代的制約が大きかっただろう。本書の叙述は現存社会主義(ソ連・東欧)の崩壊や台湾の民主化の影響を事実上被っていない。そこがどうしても気にかかる。古さを感じさせる。
概説書としてよくできているのだが、それでも改善の余地がまだまだ残されている。改訂新版を期待したい。
- 作者: 鈴木亮,鬼頭明成,二谷貞夫
- 出版社/メーカー: 平凡社
- 発売日: 2005/11/10
- メディア: 文庫
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評価:★★★☆☆
*1:岩田靖夫『ヨーロッパ思想入門』(岩波ジュニア新書)が古代を非常に重視した構成になっているのと対照的である。「旧乱読ノート」2003年11月 http://www2.ipcku.kansai-u.ac.jp/~nakazawa/reading2003.htm