地域産業論・中小企業論を専門とする著者が、フィールドワークの技法を説き明かす。
「知的生産法」というタイトルはミスリードかもしれない。本書の力点は技法そのものにはない。著者が繰り返し力説するのは、地域(現場)への愛情である。現地調査は決して一方通行で終わらせてはならない。地域の人々と一生付き合う覚悟で夜遅くまで語り合い、強固な信頼関係を築き、地域の真実を知り、地域の役に立つ(地元関係者のこころに響く)提案を行うことを目指すべきである。
地域と付き合うということは、それだけの覚悟が必要ということである。(p.29)
現場にとっての外部の人間は、何よりも「役に立つ」ものであることが求められる。・・・こうした能力は一朝一夕に備わるものではなく、その人の資質に加え、意識的に環境を自身で作り上げていくことも必要である。それには、相当の気力と時間がかかる。(p.171)
著者は、現地調査の準備と実際の流れを示すにあたり、自分自身が実際に関わったモンゴル2週間40社調査の詳細を紹介している(第1・2章)。荷物をできるだけ少なくするノウハウ、訪問する企業のアポイントメントの獲得の流れ等々、実に臨場感あふれるルポになっている。
現地調査が終われば、調査結果を論文や報告書にまとめなければならない(第3・4章)。多くの現地調査を実施すればするほど、それだけ机に向かって文章を綴る時間は減少する。慢性的な時間不足状況に直面しつつ、いかにして生産性を上げるか? 著者が示すノウハウはシンプルだが含蓄に富む。
- 資料の整理はしない。時間をかけて整理すると、それで仕事が終わったような気になってしまう。
- 時間を何とかひねりだし、書ける時間に一気に書く。締切日の順番ではなく、書ける原稿から書く。締切日、制限字数は必ず守る。(編集者との信頼関係)
- 中堅・若手研究者への刺激剤としての共編著論文集。本は「書くもの」ではなく「売るもの」である。著者自ら書籍の販売の先頭に立って、単行本を商業的に成立させる必要性。(出版社との信頼関係)
- 論文は恋人へのラブレターのつもりで書く。(平明さが一番)
著者が現場学者であるのに対して、僕は文献学者なので、その点では正反対の立場にあるが、それにもかかわらず僕は本書から大いなるパワーを授かった。本書には、フィールドワークがどうこう以前に、著者のどこまでもポジティヴな人生観・学問観が圧倒的なパワーをもって展開されている。
私が目指しているのは、やや不遜な言い方だが、地域産業の「現場」の変革を通じて、次世代に「希望」を与えることである。(p.172)
そう。次世代に「希望」を与えること。これこそ研究する人生の原点ではないか! 何年かに一度は本書を読み返して、研究する人生の原点を確かめたい。
- 作者: 関満博
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2002/04
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