宮内義彦・オリックス会長は、海部・細川・村山・橋本・小泉の各政権において、規制緩和を促進するための政府の委員会に関わり、歴代内閣の規制緩和の指南役を務めてきた。とりわけ、小泉政権においては、竹中平蔵と並んで、日本全体の規制緩和の総指揮官として君臨してきた。
規制緩和による参入障壁の破壊は、既得権益にあぐらをかき、経営努力を怠った業者(企業)を淘汰し、新規参入業者(企業)の意欲とアイデアで市場を活性化し、拡大する。「自由な競争」と「新たな発想」が「ニュー・ビジネス」を生み出す。これが規制改革の本質だ。このように宮内は強調した。
しかし、これは表向きの理屈にすぎない。彼には「政商」として別の顔があった。彼は小佐野賢治のような政府要人への裏工作を得意とするアウトサイダーではなく、規制緩和に関する情報を誰よりも早く入手できるインサイダーであった。規制緩和に伴う新規分野への進出の成否は、「いかに速く」、「確実な」情報を手に入れるかにかかっている。「規制改革は最大のビジネスチャンス!」とばかりに、規制緩和された分野にオリックスの関連会社をいち早く参入させ、事業の拡大を図った。
要するに、規制緩和とは、既得権益の消滅でなく移転でしかなかった。宮内は移転された新たな既得権益を手に入れようとしたにすぎない。「自由な競争」は隠れ蓑でしかなかった。その証拠に、宮内は規制緩和を声高に叫びながら、自らのビジネスにとって障害となりそうな場合は、新規参入を先頭に立って阻止した。そこには明らかな言行不一致があった。
本書はこのような宮内の矛盾に満ちた言行を様々な角度から検証している。セカンドハンドの素材に多く依拠しているせいか、ノンフィクションとしての迫真性はどちらかと言えば弱い。しかし、オリックスと村上ファンド、ライブドア、ソフトバンク、エイチ・アイ・エス、楽天、読売新聞、エンロンなどとの出資関係や友好・敵対関係が整理できたのはありがたかった。リース業の基本的なしくみ、混合診療が抱える問題点もよくわかった。オリックスの収益の柱がパチンコ店とラブホテルである事実はとても興味深かった。しかし、何より、長年近鉄球団のファンだった者としては、球団合併の舞台裏を描いた第5章を涙と怒りなくしては読み通すことができなかった。本当に何とかならなかったのか!
本書ではひたすらダーティに描かれている宮内氏。公平を期すために、氏の『経営論』もそのうちに読まなければ・・・。
- 作者: 有森隆とグループK
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2006/12/21
- メディア: 単行本
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