頂きもの。落手してから3か月近くが過ぎてしまったが、夏休みを利用して、ようやく読み終えることができた。
本書はポスト冷戦時代の現代社会を考えるうえで不可欠な15のキーワード――「新自由主義(ネオリベラリズム)」「ネオコン」「第三の道」「リベラル・デモクラシー」「ナショナリズム」「帝国」「知識経済」「マスメディア」「金融革命」「規制緩和」「地方分権」「大学改革」「コミュニティ」「原理主義」「環境問題」――を初学者にも理解できるように平易に解説している。14名もの執筆者による共著であることがにわかに信じがたいほど統一感のとれた著作に仕上がっており、編者の力量に脱帽する。かつて僕も編者として本作りに関わったことがあるけれども(『マルサス理論の歴史的形成』)、複数の執筆者による論文集に統一感を醸し出すことは、とても困難な作業なのである。
ここで言う本書の統一感とは、一つには、執筆スタイルの統一感であり、もう一つには、描き出されている思想的ヴィジョンの統一である。前者に関しては、各論考が20ページ程度にコンパクトにまとめられ、各キーワードの概念や歴史的背景が通俗的理解(誤解のされやすさ)と関連づけられている点が挙げられる。後者に関しては、グローバリズムとポストモダン(ニヒリズム)に抗する「公共的目的のために連帯(互助)する市民」への強い期待、知識論・慣習論に基づく「急進的ではなく漸進的な制度(規制)改革」の推奨が挙げられる。
個人的にいちばん気に入った論考は「コミュニティ」である。コミュニティ(およびコミュニタリアニズム)は昨年度・今年度の大学院のテーマであり、それなりの予備知識を有する分野であるが、とてもこんなふうにクリアに整理できない。素晴らしい。*1
「ネオコン」「第三の道」「規制緩和」「大学改革」などの論考は、わかっているつもりで実際にはわかっていなかった論点を見事に整理してくれていた。市町村合併による規模の巨大化が招く自治の衰退については、僕自身、著者(「地方分権」)とまったく同じ危惧を前々から抱いていたものだから、明快な言葉で代弁してもらえて嬉しかった。
編者の一人である柴山さんが3本の論考(「マスメディア」「コミュニティ」「環境問題」)を書かれているが、いずれも論旨明快この上なく、編者として「こんな感じで書いて欲しい」と気持ちが表現されているように推察される。そう考えると、「帝国」「金融革命」はやや難解で読みにくく、少なくとも学部生にはしんどいのではないかと思われた。20ページ程度という紙幅に収めようとして、文章の圧縮度が高くなりすぎたせいだろう。もう少し紙幅に余裕があれば、丁寧なパラフレーズが可能であっただろう。*2
最後は少し不平めいた感想になってしまったが、それは些細なことである。本書の完成度はきわめて高い。社会科学系の大学院への進学を志している学部生にとっては必読文献である。実際、これだけの予備知識を持って進学してくれれば、教える側として修士論文の指導がかなり楽になるし、ワンランク上を目指すような冒険をさせてみたくもなる。
- 作者: 佐伯啓思,柴山桂太
- 出版社/メーカー: ナカニシヤ出版
- 発売日: 2009/06/09
- メディア: 単行本
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