乱読ノート ~出町柳から哲学の道へ~

イギリス思想史を研究する大学教員の読書ノートです。もともとは自分自身のための備忘録として設置したものですが、「隠れ名著、忘れられた名著に関する情報を学生の皆さんに発信したい」というささやかな期待もこめられています。

浅野ヨシオ『たった1通で人を動かすメールの仕掛け』

8期生S村君がゼミのテキストとして選んできたもの。まず表紙と帯に書かれている惹句の派手さに圧倒される。さすがBIG tomorrow青春出版社だ。

「ビジネス、人脈づくり、婚活・・・これで落ちない人はいない!」

「それ反則! ・・・だけど、うまい!!」

「マネするだけで、面白いように心をつかめる禁断のコミュニケーション・テクニック」

「延べ1万人を動かした! ソウル(魂)メールの仕掛け人 浅野ヨシオ」

そして、本書は売れに、売れている。2009年9月5日に第1刷が出されたが、1か月後の10月5日にはすでに5刷を数えている。amazon.co.jpだけでも、数十本ものレヴューが寄せられ、最高(星5つ)から最低(星1つ)まで毀誉褒貶が渦巻いている。

低い評価のレヴューには、「見掛け倒しで、がっかり」「題名にだまされた」「婚活ではこれは使えない」とかなり厳しい言葉が並んでいるが、それは派手な惹句を真に受けて、「メールで人を面白いように動かせる」と思ってしまったからではないか。

そんなことがほとんど不可能なのは、考えるまでもなく当たり前だろう。岩●書店のような学術出版社ではないのだから、多少の誇大広告は許してあげたい。誇大広告に対してそういう反発が起こりうることは、出版社のほうも最初からおりこみずみのはずだ。

このように派手な化粧がほどこされた本であるが、化粧を落とした素顔はたいへん美しい。本書の根底にあるのは相手に喜んでもらいたいというおもてなしの気持ち(および相手を喜ばせる日本語の表現能力の学習)の大切さである。顔が見えないメールでのコミュニケーションであればこそ、そのおもてなしの気持ちをきちんと明確に表現することがいっそう重要になるのだ。当たり前に聞こえるけれども、誰もがなかなか実行できていないことを、少々トリッキーな手法で訴えた本なのだ。内容的には、山田ズーニー『伝わる・揺さぶる!文章を書く』*1の兄弟本と言ってもよいだろう。

実際、本書の「エピローグ」にこんな記述がある。

本書でご紹介した禁断のメールテクニック、ご堪能いただけましたでしょうか。
じつは、出版前にある人にこの原稿を読んでもらったとき、その人から面白い感想をもらいました。
「これはメール本のようで、メール本じゃないよね!」と。
「えっ、それはどういうことですか?」と聞いたら、
「ここに書かれているのは、メールに限らず、人と人とのコミュニケーションというか、人間関係がうまくいくためのエッセンスでもあるんだよね」
もちろん、そんな大きなテーマを意識して書いたつもりはまったくないのですが、僕はそれを言われハッとしました。(p.217)


ちなみに、その少し前にはこんな記述がある。誰にとっても思い当たる節があるだろう。

大事なのは「自分が何を見せたいか」ではなく、「相手が何を見たがっているか」です。
あなたのお子さんだけが写っている画像などはやめておきましょう。
それは相手が見たいのではなく、あなたが見てもらいたいだけだからです。
それでよろこぶのは孫の顔を見たいあなたの両親くらいのものです。(p.215)

当たり前のこと、わかっていることなのだろうけれど、実行に移すことの何とも難しいことよ・・・。

たった1通で人を動かすメールの仕掛け (青春新書PLAY BOOKS)

たった1通で人を動かすメールの仕掛け (青春新書PLAY BOOKS)

評価:★★★☆☆