8期ゼミのテキストとして読んだ。うちのゼミの女子は恋愛論が大好きなのだ(苦笑)。
本書の構成は以下のようになっている。
プロローグ 「恋愛力」は「コメント力」である
第1章 「恋愛力」は、なぜ必要か
第2章 村上春樹作品にみるドライ&クールな「恋愛力」
第3章 『冬のソナタ』に見る天下無敵の純愛「恋愛力」
第4章 『金閣寺』『三四郎』『源氏物語』にみるレアな「恋愛力」
第5章 普通の人にもまねできる「恋愛力」の基本技
エピローグ
本書は、「恋愛力」とは「コメント力」であるという観点から、様々な恋愛小説や恋愛ドラマに出てくる「モテる男」のコメントを分析し、どこが優れているのか解き明かし、モテる人とはどうあるべきかを説いている・・・ように見える。「モテる人」になるための指南書・マニュアル本である・・・ように見える。そのように期待して読むと、疑問ばかりが浮かんでくる。amazon.co.jpのレヴューでも、そのような疑問が数多く提出されていた。
村上春樹の小説に出てくる知的でクール主人公が放つコメントや「冬ソナ」の「チュンサン(ヨン様)」のセリフを使いこなせる人なんて本当ににいるのだろうか?
いくらコメントが素晴らしくても「知性」や「顔」の点で劣る男が言ったらコントになってしまうだけじゃないか?
実体験の裏付けのない恋愛観が一方的に展開されているだけではないか?
このような疑問が湧き起こるのはもっともである。本書の帯の惹句「モテor非モテは言葉で決まる!」も読者をミスリードするのに一役買っている。まったく罪作りな本である。しかし、僕が読むかぎり、第4章までは長い長い前振りにすぎなくて、著者がいちばん言いたいことは第5章、特にその第2節「『電車男』にみるステップ・バイ・ステップの「恋愛力」」に凝縮されているように思われる。*1
著者は明確に述べていないが、本書を読むかぎり、コメント力には表と裏の両面があるようなのだ。表のコメント力とは、村上春樹小説の主人公やチュンサンのようなそれを発する能力であり、それに対して裏のコメント力とは、「ステップ・バイ・ステップで(≒一歩一歩、段階を踏んで、時間をかけて」相手との距離を縮めていく能力」と言える。著者が後者のほうに力点を置いていることは、本書を丁寧に読めば理解できるはずだ。
段取りを踏むことが恋愛には大切である。・・・恋愛という観点で見れば、恋愛はまさにステップにこそ本質がある。ステップを踏まない恋愛は、恋愛とは呼べないのではないだろうか。(p.96)
・・・相手のしぐさや言葉や贈り物の一つ一つをメッセージとして受け取って、その意味を解読する。そういう細かい手続きを、ずっとたゆまず踏み続けていくプロセスが恋愛である。(p.210)
恋愛の本質は手続きにある。一つ一つのステップをきちんと踏むと、とても楽しめるということだろうか。(p.216)
知的でもイケ面でもない「普通の人」が恋愛の勝者になるためには、この「プロセスを踏む」力が必要なのである。「もともと男は、恋愛のプロセスを踏むのが面倒くさいと思っている」(p.221)からこそ、著者はあえてこのような提言を行っている。「プロセスを踏む」力こそが人間としての成熟であり、真の恋愛力である、と著者は考えているようだ。だからこそ、著者は本書の「エピローグ」で次のように記したのだろう。
この本で強調した「恋愛力」は、経験知を背景にしたコメント力だ。若さとは別のところで恋愛する力を捉えたい。そんな気持ちがあった。(p.230)
この「経験知を背景にしたコメント力」とは、表のコメント力である以上に裏のコメント力を指すと考えるべきである。そして、「経験知」とは、単なる恋愛経験の豊富さではなく、「相手のメッセージを解読しようとする誠意、気持ちを推測する細やかな気持ち」(p.216)を指すのだろう。このように考えると、「エピローグ」の言葉にも合点がいく。要するに、「恋愛力」とは「愛される力」である以上に「愛する力」なのだ。本書は「愛される」力ではなく「愛する」力を鍛えるための本として読まれるべきなのだ。あたかも本書はエーリッヒ・フロム*2の世界の入口に立っているかのようである。この点、タレントの眞鍋かをりが本書の解説を以下のような文章で始めているのは、「さすが!」「お見事!」である。
この本『恋愛力』に書いてあることのベースが、恋愛のマニュアルじゃなくて、基本、相手のことをどのくらい深く思いやってあげられるか、ということだと思うんです。(p.232)
- 作者: 齋藤孝
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2009/09/09
- メディア: 文庫
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評価:★★★☆☆
*1:ちなみに同章の第1節は「『いま、会いにゆきます』にみる「送受信」の「恋愛力」」、第3節は「『センセイの鞄』にみるもどかしさの「恋愛力」」と題されている。