乱読ノート ~出町柳から哲学の道へ~

イギリス思想史を研究する大学教員の読書ノートです。もともとは自分自身のための備忘録として設置したものですが、「隠れ名著、忘れられた名著に関する情報を学生の皆さんに発信したい」というささやかな期待もこめられています。

奥井真紀子・木全晃『ヒットの法則2』

8期ゼミのテキスト。T田さん選定。

本書は『日経トレンディ』の連載「ヒットの軌跡」(2006年11月号〜2009年6月号)を書籍化したもので、不況の時代にもかかわらず消費者に強く支持されたヒット商品20点の開発の舞台裏がレポートされている。

採り上げられているヒット商品は、「ポメラ DM10」(キングジム)、ケシポン(プラス)、「チーザ」(江崎グリコ)、「アックスフレグランスボディスプレー」(ユニリーバ・ジャパン)、「キッザニア東京」(キッズシティジャパン)、「黄金比率プリン」(森永乳業)、「クロスウォーカー」(ワコール)、「ネオボールZリアルPRIDE」(東芝ライテック)、「香りつづくトップ」(ライオン)、「ナイシトール85」(小林製薬)、「おむすび山 赤飯風味」(ミツカン)、「瞬足」(アキレス)、「木炭釜NJ-WS10」(三菱電機)、「フリクションボール」(パイロットコーポレーション)、「シャワークリーンスーツ」(コナカ)、「アラウーノ」(パナソニック電工)、「ジェットストリーム」(三菱鉛筆)、「植物性乳酸菌 ラブレ」(カゴメ)、「ふんわり名人」(越後製菓)、「ストロングセブン」(キリンビール)、以上の20点である。

個々の商品の開発秘話を読むのは楽しいが、それらに共通する何らかの「法則」が描かれているわけではない。『ヒットの法則』と題されているが、もともとの連載のタイトルが「ヒットの軌跡」であるわけだし、そもそもヒット商品に「法則」など存在するわけがないから、「どこにも法則が書かれていないぞ!」と不平を言うのはお門違いである。素直に楽しみながら読めばよいだろう。

ただ、法則とまでは言えないまでも、開発をめぐる苦労話が事実の単なる羅列に終わらないよう、それらを整序するゆるやかな枠組みのようなものは意識されているようだ。「どうすれば差別化できるか(ニッチ市場を開拓できるか)」というビジネスの根本問題を解決するのは、私(わが社)ならできるという自信・自尊心・誇り・情熱であり、業界の常識・慣例にとらわれない、あるいは、過去の失敗経験に縛られず、むしろそれを積極的に活かそう(転んでもタダでは起きない)とする謙虚で柔軟な姿勢なのである。

ちなみに、本書に影響されてポメラを買ってしまったが、期待に違わぬ使い勝手の良さである。熱烈に愛用している。今や僕もすっかり「ポメラニアン」「ポメラー」である。

ヒットの法則2(日経ビジネス人文庫)

ヒットの法則2(日経ビジネス人文庫)

評価:★★★☆☆