これも頂きもの。落手してから3か月以上が過ぎてしまったが、夏休みを利用して、ようやく読み終えることができた。
ケンブリッジやオックスフォードと並ぶイギリスの社会科学系名門大学LSE(London School of Economics and Political Scinece)。オックスブリッジのエリート教育(教養教育)に対抗するべく、実学教育中心の学校として、1895年にフェッブ夫妻らの尽力によって創設された。本書は、設立当初から現代までのLSEの歴史を、LSEの学長を務めたダーレンドルフの『LSE史』、教授であったライオネル・ロビンズの『自伝』などに依拠しながら、手際よくまとめている。
たいへん興味深い内容の本であった。イギリス経済思想を専門としているとはいえ、僕の専門は18世紀なので、19世紀や20世紀には疎く、名前や学説の上澄みくらいしか知らない経済学者が大半だったから、それらの人間関係の縦・横のつながりを知ることができたことは大きな収穫だった。もともとLSEはロンドン大学とは別組織で、1900年にロンドン大学の政治経済学部になったのは、恥ずかしながら、本書を読むまで知らなかった。
叙述の平易さ(著者の恩師の一人である根井雅弘さん譲り?)が、本書を非常に魅力的なものにしている。とりわけ、著者の専門であるロビンズの経済思想に関する解説は、これ以上望みようがないほどにわかりやすい。ロビンズの人間としての魅力も十二分に伝わってくる。プロレスではないけれども、ヒール役として描かれている実務家ベヴァレッジの権力志向も、別の意味で人間臭く、本書の魅力を高めている。ロビンズの経済政策論を「第三の道」の理念に引き寄せる著者の解釈は説得的に感じられた。
自分よりもかなり若い方にこういう立派な本を書かれると、「自分は何をやってるんだろう・・・」と歯がゆい気持ちになる。
惜しむらくは、ロビンズの経済思想を語る際の著者の語り口が軽妙すぎるがゆえに、『LSE史』やロビンズ『自伝』に依拠した(と思しき)箇所の語りのもたもた感(→翻訳臭さ?)が皮肉にも際立ってしまったことだろうか。それでも読みやすいことに変わりはないが、精読&再読すると気づいてしまい、一度気づいてしまうと、それを意識せずに読めなくなるものである。「なんでこんなぼやかした書き方するんやろう?」と。
出版社に急かされたのかもしれないが、表記の不統一や誤記が(特に索引において)散見されることも惜しまれる。おそらく本書は好評を博して増刷されると思うので、その時に修正できるように、僕が気づいた範囲内でそれらをまとめて著者にメールしておいた。*1
とにかく、勉強になった。
LSE物語―現代イギリス経済学者たちの熱き戦い (NTT出版ライブラリーレゾナント052)
- 作者: 木村雄一
- 出版社/メーカー: エヌティティ出版
- 発売日: 2009/05/29
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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評価:★★★★☆
*1:だから逐一ここには書かない。