著者はわが国のカウンセリング心理学界をその黎明期からリードしてきたその道の第一人者で*1、本書はカウンセリングという援助活動(実践)を支えているカウンセリング心理学についての入門書である。臨床心理学との違いを強く意識しつつ、「人を援助するには最低どのような知識を必要とするのか」(カウンセリング心理学の知識体系)について、簡便に解説している。
では、カウンセリング心理学という知識体系の構成要素は何か。次の八領域における主要概念あるいは主要概念の束であるところの理論である。・・・。
領域1 カウンセリング理論
領域2 カウンセリング技法
領域3 社会・文化的観点
領域4 アセスメント(現状把握)
領域5 キャリア・カウンセリング(進路相談)の理論
領域6 カウンセリングの哲学
領域7 カウンセリング研究法(リサーチ)
領域8 職業倫理
以上の八領域の知識体系を総称してカウンセリング心理学というのである。(pp.143-4)
「カウンセリング」という言葉は日常化しているが、プロのカウンセラーとしてのルールを確立しておかないと、「素人カウンセラー」「自称カウンセラー」の善意の援助が、その知識の未熟さゆえに、クライアントを意図しない不幸へと導く危険性がある。そういう危険を避けるためにも、カウンセリング心理学の「学」としての構成要素をきちんと定めておく必要がある、と著者は考えている。
臨床心理学との相違は以下のように述べられている。
臨床心理学は病的パーソナリティ(神経症・性格障害・精神病)の研究と治療が主たる守備範囲である。ところがカウンセリング心理学は、問題をかかえた健常者および問題を持っているわけではないが今よりも更に成長したい健常者を主たる対象にするものである。前者は治療(cure)志向であるが、後者は問題の解決・問題の予防・行動の発達(care)をそれぞれ志向するものである。(p.43)
さて、私はカウンセリング心理学と臨床心理学のちがいを明確にするために、前者を発達モデル(care志向)、後者を医療モデル(cure志向)と対照させたが、もうひとつちがいがある。カウンセリング心理学ではシステム(組織)をどのように育てるか、システムの中の個人をどう援助するかも守備範囲である。(p.46)
巻末の用語解説も充実しており、入門書としての完成度はきわめて高い。ただ、叙述は総じて無味乾燥で、面白みに欠ける。知的興奮に乏しく、教科書以上のものではない。そこが物足りない。
「心を育てるとは反応の仕方を学習させるという意味である」(p.90)、「家庭は第二の職場である」(p.119)というリアルな認識には大いに納得させられた。
- 作者: 國分康孝
- 出版社/メーカー: PHP研究所
- 発売日: 1998/08/01
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評価:★★★☆☆
*1:『〈むなしさ〉の心理学』の諸富詳彦氏の師匠であるようだ。