乱読ノート ~出町柳から哲学の道へ~

イギリス思想史を研究する大学教員の読書ノートです。もともとは自分自身のための備忘録として設置したものですが、「隠れ名著、忘れられた名著に関する情報を学生の皆さんに発信したい」というささやかな期待もこめられています。

吉岡秀子『セブン-イレブンおでん部会』

コンビニ王者「セブン-イレブン」の売上の7割強は食品が占めている。本書は「おいしさ」を飽くことなく追求するセブン-イレブンの商品開発の裏側をルポしたものである。「おにぎり」「メロンパン」「調理めん」「おでん」「サンドイッチ」「カップめん」「アイスクリーム」「お菓子&デザート」という8つの章から構成されている。「おでんの並びには理由がある!!」という帯の惹句にやられた。「あたりまえを問いなおす」ことは楽しい。知的好奇心をくすぐられる。

どの商品ジャンルにも共通しているのは、開発にあたり「地域性」「鮮度・安全・安心」「あたたかみ」という3つの基本軸が強く意識されていることである。それが徹底的なドミナント戦略*1と見事な相乗効果をあげていることも見逃せない。

1998年、冷やし中華の開発にあたって、開発チームは鈴木敏文会長の前で11回ものプレゼンを行ったらしい(「冷やし中華事件」)。鈴木会長の「おいしさ」へのこだわりを如実に示すエピソードだが、僕はここまで会長が全権を握ってしまっている組織に一抹の不安を抱いてしまう。リーダーシップを超えたカリスマ性への不安である。

・・・時期はゴールデンウィークまっただなか。・・・鈴木会長が近所のセブン-イレブン冷やし中華を買って食べた。役員試食会で随時、味は確認しているが、よくよく食べてみると、おいしくない。
「今すぐやめろ!」
販売中止命令が商品本部長へ渡り・・・。
セブンでは、よく聞く話なのだ。鈴木会長は、おいしくないものは頑として店に置くことを許さない。(pp.75-6)

鈴木批判は社内で可能なのか? ポスト鈴木は育っているのか? 中内ダイエーの二の舞はないのか? 中内は晩年「消費者が見えなくなった」と心中を吐露した。鈴木会長が消費者心理を確実につかんでいる間はセブン-イレブンは安泰だろうが・・・。

なお、著者は関大OG。

セブン-イレブンおでん部会―ヒット商品開発の裏側 (朝日新書 34)

セブン-イレブンおでん部会―ヒット商品開発の裏側 (朝日新書 34)

評価:★★★★☆

*1:一定地域に集中して店舗展開すること。セブン-イレブンはまだ34都道府県にしか出店していない。