乱読ノート ~出町柳から哲学の道へ~

イギリス思想史を研究する大学教員の読書ノートです。もともとは自分自身のための備忘録として設置したものですが、「隠れ名著、忘れられた名著に関する情報を学生の皆さんに発信したい」というささやかな期待もこめられています。

日経CSRプロジェクト編『CSR 働く意味を問う』

日経CSRプロジェクトから刊行される3冊目の書籍だが、一冊目『CSR 企業価値をどう高めるか』、二冊目『CSR 「働きがい」を束ねる経営』よりも結果的に先に読むことになった。

本書は、プロジェクト参加企業(オムロン、佐川急便、住友林業東京海上日動火災保険三井住友銀行など)の社員たちのインタビュー記事、および、大学・高校への派遣授業のルポを中心に構成されている。社員たちには、自社のCSR活動ではなく、自身の働きがいを語ってもらっている。それは「企業人が働く意義を次世代に伝えることこそCSRの重要な要素だ」という趣旨から本書が編まれたためである。

一つ一つの記事が短いために議論の展開が淡白で、その点が不満であるが*1、働くことの喜びの源泉として社員たちの多くが共通して挙げるのは、「他の誰かの役に立っていることが嬉しい」「この仲間と切磋琢磨できることが嬉しい」「自分自身の成長を感じられることが嬉しい」などである。これらこそが「働きがい」の本質を形成する要素なのだろう。

「やりがいの持てる組織から「よい会社」が生まれる 使命感、喜び、夢、達成感、誇り――日々の仕事で抱く想いが、CSRにつながる!」という帯のキャッチコピーには、100%の賛意を表明したい。

CSR働く意味を問う

CSR働く意味を問う

評価:★★☆☆☆

*1:ソーシャル・キャピタルに対して中途半端に一章を割くくらいなら、それをメイン・テーマに据えた別の一書を編み、そのぶん個々の記事を長くするほうが良いだろう。