「社会責任投資(SRI:Socially Responsible Investment)」*1とは、企業を収益性ばかりでなく倫理性(法令遵守・環境への配慮・人権への配慮・雇用確保・情報開示の透明性など)からも評価して、倫理的に「誠実な企業」を投資を通じて応援していこうとする活動のことである。
本書は、「はじめに」で書かれているように、「SRIとは何か、それはどのようにして発展してきたか、どのようなメカニズムで誠実な企業を見分けて応援するのか、誠実な企業に私たちが投資することの意義は何か、などをわかりやすくまとめた」(p.iv)ものである。日本社会にSRIを広めたい。お金の力で日本社会を良くしたい。誠実な企業が報われる社会にしたい。日本の企業の新しい成功モデルを作りたい。そんな著者の意気込みがひしひしと伝わってくる。
法律を守るのは最低限やるべきことであり、当然のことです。加えて、法律を守ればそれでよいというわけではありません。法令はすべての事象を想定してはいませんし、法は現象の後追いになることもあります。本道を行く企業は、法を超えた倫理的な価値観をしっかりと維持し、社会的な責任をきちんと果たします。倫理観を役職員が共有し、断固として誠実に法令を遵守する企業、そういう企業を「政治な企業」と定義します。(pp.64-5)
・・・新しい日本の社会のためにあなたの一万円が力を発揮する、そんなSRIが市民権を得られるように筆者も努力していきたいと思います。
読者の皆さんも、株式市場を通じて企業社会に影響をもち、社会責任を果たしていくよい企業を応援するSRIというものを、是非応援していただきたいと思います。
誠実な信頼できる企業が栄え、そうした企業に投資する皆さんも利益を得る、そして日本の社会全体が豊かで、公正で、安全な社会に変わっていく、そのためにあなたの一万円が使われる時代はもうすぐそこまで来ているのです。(pp.134-5)
本書は典型的な「隠れ名著」だろう。新書であるにもかかわらず、amazon.co.jpにもレヴューが一本も寄せられていない。それほどまでに注目されていない。「岩波アクティブ新書」というややマイナーなシリーズの一冊であるせいかもしれない。これが「岩波ジュニア新書」や「ちくまプリマー新書」の一冊であれば、もう少し注目してもらえたのではないか。とにかく、叙述が平易でわかりやすい。初学者にやさしい。株式投資および投資信託の基礎知識にかなりのページ数が割かれており(第6章)、痒いところまで手が届いている。「自分のお小遣い(貯金)を増やす何か良い方法はないだろうか」と思案している人なら誰でも、本書を興味深く読み進められるだろうし、読み終えた時には金融についてひとかどの知識を身につけているはずだ。
最大の問題は、昨年秋からの深刻な不況で、SRIファンドの運用実績がどうなっているかである。「誠実な企業を応援しようという志で誠実企業の投資信託に投資していると、長い目で見て相対的に投資パフォーマンスも悪くはない」という本書の仮説(p.93)は依然として裏付けられるのだろうか? 僕は投資信託(特にSRIファンド)に強い興味を持っているけれども、もう少し勉強してからでないと、まだまだ怖くてとても手が出せない。
社会責任投資の基礎知識―誠実な企業こそ成長する (岩波アクティブ新書 (108))
- 作者: 秋山をね,菱山隆二
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2004/04/06
- メディア: 単行本
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評価:★★★★☆
*1:「社会的責任投資」と訳される場合のほうが多いようだ。