著者はマス・コミュニケーション史を専攻する元東大教授。2006年2月に74歳で逝去。本書は近世・近代イギリス社会における活字メディアを主題とする。ジョン・フォックス『殉教者の本』、ロバァト・バートン『憂鬱の解剖』、スウィフト『ガリヴァー旅行記』、トマス・ペイン『人間の権利』、チャールズ・ダーウィン『種の起源』、サッカレー『虚栄の市』、オスカー・ワイルド『ドリアン・グレイの画像』という7冊のベスト・セラーを採りあげ、それらがどのように読まれたかを考察することを通じて、活字文化の変貌を明らかにしようとしている。
ペイン『人間の権利』を扱った第4章は、自分自身の専門(バーク研究)との関連もあって、かなり前から幾度も繰り返し読んできた章なのだが、全体を通読する機会はなかなか得られなかった。このたびようやくその機会を得た。ジョン・フォックス『殉教者の本』を扱った第1章が実に面白い。実際に読まれることは少なく、お守り(護符)として所有されていた、と言うのだ。「読まなくても(内容は大体聞いて知っている)、持っているだけで悪魔をよせつけない、精神が安定する」(p.48)という効能が期待されていたようだ。さながら今日の「積読(つんどく)」である。実際に読む予定はないものの、その本が書架に収まっているだけで、自分が賢くなったような錯覚に陥ってしまうから、何とも不思議である。
web上にレヴューがまったく見当たらないのが不思議な好著である。
ベストセラーの読まれ方―イギリス16世紀から20世紀へ (NHKブックス)
- 作者: 香内三郎
- 出版社/メーカー: 日本放送出版協会
- 発売日: 1991/09
- メディア: 単行本
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評価:★★★★☆