乱読ノート ~出町柳から哲学の道へ~

イギリス思想史を研究する大学教員の読書ノートです。もともとは自分自身のための備忘録として設置したものですが、「隠れ名著、忘れられた名著に関する情報を学生の皆さんに発信したい」というささやかな期待もこめられています。

大友博・西田浩編『この50枚から始めるロック入門』

本書は、ビル・ヘイリー&ヒズ・コメッツの「ロック・アラウンド・ザ・クロック」が全米チャートの首位を獲得した1955年をロック誕生の年として定め、それ以降の50年間を10年ずつに区切り、それぞれを「黎明期」「発展期」「爛熟期」「転換期」「再構築期」と位置づけ、ロック史の流れを総括し、各時期を代表する名盤10枚(合計50枚)を選び、その魅力を紹介している。

何しろたった50枚である。大半の読者の感想は、「私の愛聴する・・・が入っていない!解せない!けしからん!」というものではないだろうか。そういう意味では、最初から失敗(あるいは不評)を約束されているかのような、実に無理のある企画だ。何を隠そう、僕も「キング・クリムゾンクリムゾン・キングの宮殿』が選ばれていないのはおかしい!」と思っている。しかし、編者の一人の西田さんは表紙折り返しのプロフィール欄に「無人島に持っていく1枚」としてU.K.の『U.K.』を挙げており、執筆者の一人の松崎正秀さんもキング・クリムゾンの『太陽と戦慄』を挙げているのに、いわゆる「プログレ」系で50枚に選ばれているのはピンク・フロイド『狂気』のみである。「50枚に絞り込むなんて絶対に無理!」と苦悩する執筆者の姿が目に浮かぶようだ。個人的な思い入れを括弧に入れて、泣く泣く50枚から除外した名盤のいかに多かったことだろう。

僕は「超」がつくロック野郎である(少なくともそれを自認・自任している)。しかし、聴いているものが70・80年代のプログレ系とHR/HM系に集中しており、60年代と90年代以降については、思い入れの強いアーティストの作品を除けば限りなく無知に等しい。*1僕のような(偏食ならぬ)偏聴人間が音楽の幅を拡げたくなった時、本書は非常に便利なガイドの役割を果たしてくれる。本書で紹介されているクリーム『カラフル・クリーム』とトーキングヘッズ『リメイン・イン・ライト』をさっそくamazonに注文した。近日中に手元に届くことになっている。

この50枚から始めるロック入門 (中公新書ラクレ)

この50枚から始めるロック入門 (中公新書ラクレ)

評価:★★★☆☆

*1:ちなみに、本書で選ばれた50枚中、僕が所有しているのは15枚であった。