岡山出張(8月4・5日)を利用して、移動の新幹線の中とホテルのベッドの上で一気に読んだ。
言わずと知れたシェイクスピアの代表作の一つであるが、本書に限らず光文社古典新訳文庫はどれもその流麗な訳文が素晴らしい。中山元訳のカント*1を初めて読んだ時、岩●文庫と比べて段違いの読みやすさに感動した。本書の訳文も流麗そのもので、400年以上前に書かれた戯曲であることがにわかに信じがたいほどである。この志の高い出版事業に心から拍手を送りたい。
帯の宣伝文句は「圧倒的存在感で迫る人間シャイロック、魂の叫び!!」とあるのだが、少なくとも僕はそういう印象を受けなかった。主役であるはずの大貿易商アントニオも同様だ。英文学に関してはずぶの素人なので好き勝手に書かせてもらうが、二人とも人間としての描かれ方がやや類型的あるいは一本調子に感じられて(意図的にそう書かれたのかもしれないが)、「この役を演じてみたい!」という意味での共感の対象となりにくかった。『ヴェニスの商人』というタイトルにもかかわらず、アントニオとシャイロックの対立抗争物語よりもアントニオの友人バサーニオの貴婦人ポーシャへの求婚物語(および指輪をめぐる茶番劇)のほうが、数倍印象深かったし面白かった。ポーシャは全登場人物の中でいちばん人間的な魅力に溢れているのではないか。感情の表出がカラフルなのだ。もし今も僕が演劇生活を送っていたとするならば、男の僕が演じるのは無理だとしても、ぜひとも演出してみたい役である。
畏れ遠ざけていたシェイクスピアが一気に身近な存在になった。光文社のおかげである。すでに『リア王』と『ジュリアス・シーザー』がシリーズのラインアップに含まれているが、僕としては『ハムレット』と『真夏の夜の夢』の登場を切望する。
- 作者: ウィリアムシェイクスピア,William Shakespeare,安西徹雄
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2007/06/01
- メディア: 文庫
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評価:★★★★★
*1:『永遠平和のために/啓蒙とは何か 他3編 (光文社古典新訳文庫)』のこと。この「乱読ノート」ではまだ取り上げていない。