乱読ノート ~出町柳から哲学の道へ~

イギリス思想史を研究する大学教員の読書ノートです。もともとは自分自身のための備忘録として設置したものですが、「隠れ名著、忘れられた名著に関する情報を学生の皆さんに発信したい」というささやかな期待もこめられています。

西いずみ『あいまいな日本の不平等50』

「もやどき。」すなわち「よくわからずにモヤモヤしていたイマドキの問題が1冊でわかるシリーズ」の中の1冊であるとのことだ。

不平等問題や格差問題を冷静に(学問的に)論じたい場合、数値データは不可欠であるが、本書はそうした数値データが満載されている非常に便利な一冊である。教育・社会保障・医療・経済・労働・社会の6分野から50のテーマ(社会階層と大学、年金、児童虐待、ホームレス、生活保護国民健康保険料、富裕層、ワーキングプア外国人労働者、パラサイトシングル等々)が選定されている。当然のことながら、単なるデータ集ではなく、数値の持つ意味およびそれを生み出した社会背景についても、簡潔な解説が付されている。

僕が本書と出会ったそもそものきっかけは、2006年に北九州市で発生した餓死事件(生活保護の申請を市に拒否された50代の男性が餓死した事件)に興味を持ち、それを調べようとしたからである。本書によれば、全国各市が設置する福祉事務所で、2004年度に受け付けた生活保護の相談件数のうち、実際に保護を始められた割合は28%(低い!)なのだが、なかんずく北九州市は最低の14.6%(最高は千葉市の69.7%)で、福祉行政の自治体間「格差」は非常に大きいことがわかる(p.68)。

データおよび解説の出典としては、専門的研究書や新聞はもちろんのこと、省庁の報告書から『AERA』『週刊ポスト』といった雑誌に至るまで、きわめて種々雑多な文献が利用されている。だから、「どこまで信用してよいのか?」という問題は残ってしまうし、また、数値がそれが本来持つ意味を超えて勝手に一人歩きしてしまうことへの注意がもう少しあってもよかった。人口の高齢化という要因を加味せずに、ジニ係数のトレンド的上昇を「不平等の拡大」とただちに解釈してしまう(p.100)ことは、大竹文雄氏(文春新書編集部編『論争 格差社会』)らの批判を浴びることになるだろう。しかし、当該テーマへの一次的な接近として本書がきわめて有益なのは間違いない。ビジネス・エシックス論文を執筆する際にも、大々的に利用させていただいた。

帯の惹句を引用しておく。

1年で70人以上が餓死。約20万人が自己破産。文房具費や給食費を払えない小中学生は134万人。自殺者は、交通事故死者の約5倍。
数字で見ると、知らなかった日本の現実が見えてくる!

評価:★★★★☆