乱読ノート ~出町柳から哲学の道へ~

イギリス思想史を研究する大学教員の読書ノートです。もともとは自分自身のための備忘録として設置したものですが、「隠れ名著、忘れられた名著に関する情報を学生の皆さんに発信したい」というささやかな期待もこめられています。

遅塚忠躬『フランス革命―歴史における劇薬』

ブリテンにおけるフランス革命」という事典項目の執筆を依頼された関係で本書を手に取った。基本的な史実の誤認があってはまずいから。

著者はフランス革命史研究の大家。人間の尊厳を高らかに謳ったフランス革命が血で血を洗う悲惨をもたらしてしまったのはなぜか? 革命の二面性(栄光と悲惨)の原因を、主として階層構造(貴族・ブルジョワ・大衆の三極構造)の視点から驚くほど平易に解説している。

僕は経済思想史研究者なので、経済学の成立問題との関連で、「富者の所有権&経済的自由主義」と「貧者の生存権&価格統制」とのせめぎ合いをめぐる叙述(第3章)に、とりわけ強い興味を覚えた。

日本国憲法第25条は国民の生存権の保障を明記しているが、それは元来フランス革命の理想を受け継いだもので、具体的には、恐怖政治のリーダーであったロベスピエールが93年憲法において認めようとした考え方である。(89年の人権宣言は基本的人権のなかに生存権を認めていなかった。)

こうして、現代日本の私たちは、あの恐怖政治の血まみれの手からの贈り物を受けているのです。(p.169)

平易な文章ながらも、そこに込められた著者のメッセージは重い。『砂糖の世界史 (岩波ジュニア新書)』『ヨーロッパ思想入門 (岩波ジュニア新書)』などと並ぶ、岩波ジュニア新書のラインアップ中の白眉。

フランス革命―歴史における劇薬 (岩波ジュニア新書)

フランス革命―歴史における劇薬 (岩波ジュニア新書)

評価:★★★★★