東アジア(中国)の勉強を本格再開させて2冊目に手に取ったもの。著者は慶大法学部教授で、現代中国・政治外交を専門としている。
200ページほどの小著ながら、「中華人民共和国」という国の過去・現代・未来がたいへん要領よくまとめられている。専門家が読めば簡潔すぎて不満が残る内容なのだろうが、僕のような学習ブランクの長い者(事実上の初心者)にとっては、欠落している基本的知識を手軽に補填できることがたいへんありがたい。
「中国とは何か」「中国の世界」「世界の中国」「21世紀の中国」の4章構成をとっているが、個人的には思想史との関わりで第1章と第4章をとりわけ面白く読んだ。
著者によれば、中国はプライドとメンツにこだわる原則主義・形式主義の国でありながら、自分にも相手にも常に逃げ道を用意している現実主義の国でもあり、より本質的なのは後者である。中国には表の顔と裏の顔があるのだ。
このような両面性の観点から毛沢東の「矛盾論」を解説した件(p.47以下)は、僕のような思想史研究者の興味を大いにそそる内容であった。また、経済建設が必要だった時代に精神革命(文化大革命)を唱えた毛沢東は非現実主義的であったのか、社会主義市場経済を唱えた訒小平は現実的であろうとするあまり社会主義者であることを棄てたのか、と問うた件(p.177以下)もたいへん興味深く読んだ。
全体を通しての印象は、中華人民共和国という国を理解するいちばんのカギは、建国の父である毛沢東の思想と行動、栄光と悲惨をどう理解するかにかかっているのではないか、ということだ。彼ほど教条主義を排した冷静な評価が求められる人物もいない。著者は評価者として可能なかぎり冷静であろうと努めているように思われる。21世紀の中国についての展望は、このような冷静な評価の延長線上に描かれるべきものであろう。
残念ながら、10年前(1999年、江沢民時代)に発表されたものなので、胡錦濤に指導される現在の中国を本書で追いかけることはできない。それにもかかわらず、入門書としての本書の価値はいまだに減じてないように思われる。良書である。
- 作者: 国分良成
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 1999/09
- メディア: 新書
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評価:★★★★☆