成長を続ける幸福な組織がある一方で、衰退の危機に瀕している不幸な組織もある。今や組織の命運を分ける一番の鍵は社員間のコミュニケーションである。本書はコミュニケーション本質を(「言葉」ではなく!)「気持ち」のキャッチボールになぞらえ、ビジネスの現場で豊かなコミュニケーションを実現するための原則と技法を、誰にでも理解できるやさしい言葉で丁寧に解き明している。
コミュニケーションの問題は、さまざまな形をとりながらも、その本質はひとつです。すなわち、「未完了」です。つまり、投げたボールが返ってこない状態です。(p.71)
僕がゼミ掲示板の書き込み期限の厳守をゼミ生にうるさく注意する理由はまさにこの点にある。「投げたボールが返ってこない状態」の放置は、組織(ゼミ)を腐食させる最初の一歩なのだ。
――最近ちょっと行き詰まってしまっているんです。
――そうか。行き詰まっているんだね。
――ええ。
ここで、キャッチボールはひとつ完了。それから、次のキャッチボールが続きます。
――で、課長にご相談したいことがあるのですが。
これが正しいキャッチボール。ところが実際起こっているのは……。
――最近ちょっと行き詰まっているんです。
――なんでなんだ! 甘えてるんじゃないか?
投げたボールは、宙ぶらりんのまま、別のボールが返ってきてしまいました。(pp.46-7)
僕自身にも学生に誤って別のボールを投げ返してしまったことがこれまで幾度となくあったはずだ。大学教員生活も今年で9年目。少しくらいはうまくキャッチボールできるようになっているだろうか? つい自問してしまう。
コミュニケーションは身体全体を使って行なうもの(p.26)。話す能力とは相手の聞く能力を高める能力のこと(p.89)。聞く能力とは相手が思わず受け取って返してみたくなるような効果的な質問をする能力のこと(p.92)。コミュニケーションとは質ではなく量(頻度)が重要(p.98)。いずれも言われてみれば当たり前のことのように思えるが、言われるまで自覚できていないことばかり。その気になれば30分ほどで読み通せる小さな本(しかもイラスト満載なので絵本のようでもある)だが、書かれてあるのは本質的なことばかりで、一字一句たりとも読み流すわけにはいかない。
序文で軽く触れられている程度だが、社員間の良質なコミュニケーションの結果として生み出される信頼、相互理解、共通の価値観などをソーシャル・キャピタル(社会関係資本)として捉える視点は新鮮に感じられた。(5期ゼミ生が長期間にわたって学んできた)コミュニケーション論を経済学に接合するための糸口がここにあるような気がしてならない。
評価:★★★★☆
- 作者: 伊藤守
- 出版社/メーカー: ディスカヴァー・トゥエンティワン
- 発売日: 2004/11/18
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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