同じ著者の『セブン-イレブンの「16歳からの経営学」』*1は、本書*2のエッセンスを高校生にもわかるようにやさしくまとめたものである。したがって、内容的には6-7割ほど重複している。どちらかを薦めるかと問われれば、記述の平易さから、『16歳からの経営学』を薦める。
もっとも、本書の記述も十分に平易である。また、本書にしか見られない興味深い事実や分析もある。
創業以来、30年近く欠かさず続けられているFC会議は、セブン-イレブンの強さの秘密とされているが、その具体的内容が『16歳からの経営学』よりもかなり詳細に紹介されている。FC会議での会長講話は「オーナーさんとのやりとりで難しい言葉を使っていませんか」(p.105)といったきめ細やかな指導にまで及んでいる。これにはさすがに驚かされた。もっとも、鈴木氏本人は何事につけても「あたりまえのことを言っているだけ」と言う。
この「あたりまえ」のことを実践するのは、実は簡単なことではなく、柔軟かつ多様な頭の使い方をしなければならない。この頭の使い方を、分かりやすく、シンプルに説き続けるのが鈴木敏文という経営者なのだ。(p.11)
進化論史とダーウィニズムを集中的に勉強していた(現在も断続的に勉強している)時期にたまたま読んだ佐々木正人『知性はどこに生まれるか―ダーウィンとアフォーダンス (講談社現代新書JEUNESSE)』*3で「アフォーダンス」なる概念を知ったが、そのような生態心理学の概念がコンビニ経営で応用されている(pp.239-45)事実にも驚かされた。*4進化論の勉強がこんな形で経営学とつながるなんて、学問の世界は本当に深い。*5
なお、日々の雑感「Neil and Rush and Me」でも本書を紹介している。*6
鈴木敏文の「統計心理学」―「仮説」と「検証」で顧客のこころを掴む (日経ビジネス人文庫 (か3-2))
- 作者: 勝見明
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞社
- 発売日: 2006/03/01
- メディア: 文庫
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評価:★★★★☆
*1:http://d.hatena.ne.jp/nakazawa0801/20060703
*2:原著は2002年10月刊。
*3:旧「乱読ノート」2004年12月 http://www2.ipcku.kansai-u.ac.jp/~nakazawa/reading2004.htm
*4:その筋の方々には常識のようだ。単に僕が無知なだけ?
*5:調べてみると、生態心理学におけるアフォーダンス概念とビジネス、マーケティング、デザインにおけるアフォーダンス概念との間には、小さくない相違が存在しているようなのだが、現在の僕の学力ではこれ以上の説明はできない。