乱読ノート ~出町柳から哲学の道へ~

イギリス思想史を研究する大学教員の読書ノートです。もともとは自分自身のための備忘録として設置したものですが、「隠れ名著、忘れられた名著に関する情報を学生の皆さんに発信したい」というささやかな期待もこめられています。

勝見明・鈴木敏文・野中郁次郎『セブン-イレブンの「16歳からの経営学」』

4期・5期ゼミで鈴木敏文齋藤孝『ビジネス革新の極意』をテキストとして使用することになったので、サブ・テキストとして手に取った。

本書は、日本最大最強のコンビニエンスストアチェーン、セブン-イレブン・ジャパンの経営手法を素材に、経営学の基本をやさしく解き明かす。アルバイトや社員の生の声に加えて、創業者である鈴木敏文氏の言葉、鈴木氏の経営者としての手腕と能力を高く評価する経営学者・野中郁次郎氏の解説が随時挿入されており、単なる事例紹介に終わっていない。高校生には少し難しい気がするが、就職を意識し始めた大学3回生にとっては必読の一冊と言えるだろう。

高校生である読者が、セブン-イレブンでアルバイトを始め、ついで社員になり、管理職に昇進し、ついには経営トップへかけ上がっていくと想定し、各ステージごとに経営の基本を身につけていく、という構成をとっている。

  • 第1ステージ より多く売れる商品を揃えるにはどうすればいいのか?--仮説力をつける
  • 第2ステージ より多くのお客に買ってもらうにはどうすればいいのか?--売り込む力をつける
  • 第3ステージ ヒット商品を生み出すにはどうすればいいのか?--商品開発力をつける
  • 第4ステージ 人によりよく動いてもらうにはどうすればいいのか?--人をマネジメントする力をつける
  • 第5ステージ トップになったら何をすればいいのか?--リーダーシップを持つ

本書のエッセンスを端的に表現していると思われる一節をここに紹介しておこう。

仮説と検証の繰り返しによって、一品ごとに常に売れ筋を把握し、死に筋を排除していくことを、セブンイレブンでは「単品管理」と呼ぶ。
単品管理は、セブン-イレブンの経営の根幹となる概念だ。すべての仕組みやシステムは、この単品管理を実現するために存在している。どの店舗でどのような仮説が立てられ、どの商品がどれだけ発注されても、本部側はそれに対応できなければならない。店舗から送信される発注情報を迅速かつ的確に処理する世界最先端の情報システム、冬でも冷やし中華の発注にも対応できるような生産体制、そのための原材料の確保、効率的な物流、そして、店舗に次々と新商品を投入して新しい売れ筋を生み出す商品開発……等々、店舗が表舞台だとすれば、裏舞台のあらゆる仕事は単品管理の実現を前提としている。
つまり、単品管理は、めまぐるしく変化する顧客のニーズに応え続けようとするセブン-イレブンの〝思想〟や〝世界観〟を象徴するものでもあるのだ。
…。
この単品管理を、全国一万店を超える店舗でオーナーや店長ばかりでなく、アルバイトやパートまでが実践する。それがセブン-イレブンの現場の強さになっている。(p.58)

セブン-イレブンの強さは店舗だけ見ていてもわからない。セブン-イレブンの強さはそこで働く人の強さである。アルバイトやパートの身分であっても、仕事を通じて自分の勤める店舗を自己実現できる場所=「居場所」だと感じるようにまでなるらしい(pp.140-6)。去年3月の卒業した2期生H岡さんが「居場所論」というタイトルで卒論を書いたのだが、臨床心理学的な分析が主であったため、どのように指導すれば経済問題と接合させることができるのか、苦慮した記憶がある。今になって思えば、本書が示すような方向で経済問題と接続させることができたわけだな。

nakazawaゼミ生全員に本書を強く薦める。

評価:★★★★★