乱読ノート ~出町柳から哲学の道へ~

イギリス思想史を研究する大学教員の読書ノートです。もともとは自分自身のための備忘録として設置したものですが、「隠れ名著、忘れられた名著に関する情報を学生の皆さんに発信したい」というささやかな期待もこめられています。

吉岡秀子『砂漠で梨をつくる ローソン改革 2940日』

コンビニ業界第二位のローソン。この巨大企業の社長に43歳の新浪が就任したのは2002年のこと。親会社の三菱商事から再建を託された。長年トップダウン方式でやってきて傾きかけたこの会社(ローソンはかつてはダイエーの傘下にあり、創業者である中内功の影響力が絶大だった)を根本から変える――指示待ちでなく「自分で考え、自分で動く」理想の社員像(p.14)を実現する――ために、新浪の奮闘が始まった。本書はその奮闘の記録である。

新浪はメディアへの露出度も比較的高いため、経営者としてはかなり著名な人物であるはずだ。本書の内容の半分くらいはDVD『プロフェッショナル 仕事の流儀 コンビニ経営者 新浪剛史の仕事 さらけ出して 熱く語れ [DVD]』を通じてすでに知っていたが、それでも本書は十分に面白い。まず新浪のどこまでも熱い言葉にしびれる。鼓舞される。男惚れしてしまいそうなほど。

新浪は社長就任当時のローソンを「砂漠だった」と回想している。「いろいろなことを考え、教え、水をたっぷりとまいても、何の芽も出ない砂地のようだった」(p.14)と。そこで彼は自分から社員との距離を縮めようと決めた。現場との密なコミュニケーションを通じて「自分で考え、自分で動く」社員を育成しようとしたのだ。しかし巨大企業であるためコミュニケーションのコストもまた巨大である。その弊害を打破するための様々な工夫・実践が本書で紹介されている。新浪の頭の中がコミュニケーションを密にするアイデアで満ちていることがよくわかる。彼は偉大なコミュニケーターであることを通じて、トップ(リーダー)に必要な資質や行動が何であるかを読者に具体的に教えてくれる。

本書の内容はもちろん以上に尽きるものでない。脱セブンイレブンのためのローソンの差別化戦略とは? 稼ぐことと社会貢献をどのように両立させるか? 読者は本書から多くを学ぶことをできるはずだ。

流通業界の進化を追いかけるのが昔(中高生時代)から大好きな僕にはたまらない一冊だった。やはりコンビニ業界は面白い。日本経済の「今」が見える。なお、著者は関大OGである。

砂漠で梨をつくる ローソン改革 2940日

砂漠で梨をつくる ローソン改革 2940日

評価:★★★★☆