TPP(環太平洋パートナーシップ協定)問題を考えるための基本的論点を手際よく整理したたいへん便利な一冊である。タイトルが示すように、筆者は日本のTPP参加に反対の立場だが、その議論は意外に(失礼!)冷静で、好感が持てる。
著者によれば、TPPの内容はFTA(自由貿易協定)やEPA(経済連携協定)のそれに比してきわめて急進的である。TPPの日本経済への影響は農業に対してだけではなく、ほとんどすべての産業分野に及ぶ。TPP賛成派の出張は、内需と外需との関係や食糧安全保障(食の安全)についての正確な認識を欠いており、TPP参加によるメリットとデメリットの比較衡量も不十分である。したがって、賛成or反対という二者択一的な議論に陥ることはたいへん危険である。TPP問題を考える場合は、内需が期待できない環境で、外需を切実に求めているアメリカ(オバマ大統領)の思惑を決して軽視してはならない。
TPPのデメリットを考えると、なぜFTAやEPAではいけないのかという疑問がわいてきます。お互いのデメリットを減らし、なるべく得るものが多くなるよう交渉するFTA/EPAこそ日本が取るべき道ではないのでしょうか。
・・・FTAのメリットは何といっても自国にとって弱い分野を保護しながら交渉できることです。
・・・FTA/EPAは、関税撤廃や貿易手続きの簡素化による経済環境の変化を例外項目という緩衝材を入れることによって、副作用を最小限に抑えた協定なのです。逆にTPPは副作用を一切艦みない劇薬に例えることができます。(pp.66-8)
TPP参加に反対する立場の基本的論点のほぼすべてが本書に出そろっているように思われる。もちろん、本書に書かれている内容を鵜呑みにせず、賛成派の見解と照らし合わせることを怠ってはならないが、それは後日にじっくりと行うことにしたい。
- 作者: 廣宮孝信,青木文鷹
- 出版社/メーカー: 扶桑社
- 発売日: 2011/03/01
- メディア: 新書
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評価:★★★★☆