乱読ノート ~出町柳から哲学の道へ~

イギリス思想史を研究する大学教員の読書ノートです。もともとは自分自身のための備忘録として設置したものですが、「隠れ名著、忘れられた名著に関する情報を学生の皆さんに発信したい」というささやかな期待もこめられています。

小林時三郎『マルサス経済学の方法』

本書を紐解くマルサス研究者なら誰でも、44年前のわが国のマルサス研究の水準の高さに驚嘆するはずだ。他ならぬ自分のその一人である。B6版で240ページ。小著と言ってよい。エッセイ風の軽めの文体。だが、最初から最後のページまで、啓発力に富む議論が次々と展開され、ノックアウトされる。

本書の表題が意味するところは、マルサスの社会科学体系(とりわけ『人口論』と『経済学原理』)を統一的に理解する基本視角としての、「バランス主義」「中庸主義」「比例主義」の考え方である。マルサスの社会発展観、新マルサス主義、短期と長期、セイ法則、マルクスとの対比、ケインズとの対比などの重要テーマが、この視角から明快に解説されている。

これを読まないマルサス研究者は「もぐり」と言ってよいだろう。必読文献。*1

マルサス経済学の方法 (1968年)

マルサス経済学の方法 (1968年)

評価:★★★★★

*1:マルサス人口論綱要』(小林時三郎訳、未来社、1959年)の訳者解説も同様にすごい。併せ読まれるべき。