乱読ノート ~出町柳から哲学の道へ~

イギリス思想史を研究する大学教員の読書ノートです。もともとは自分自身のための備忘録として設置したものですが、「隠れ名著、忘れられた名著に関する情報を学生の皆さんに発信したい」というささやかな期待もこめられています。

2006-01-01から1年間の記事一覧

斎藤孝『コミュニケーション力』

斎藤孝さんの著作を「乱読ノート」でとりあげるのは、早くも本書で5冊目(斜め読みは除く)になる。*1広田照幸さんや高橋伸夫さんのように、サポーターであることを自認・公言しているわけではないので、「こんなに読んでいたのか」と自分でも意外に思う。知ら…

市川伸一『学ぶ意欲の心理学』

教育心理学への格好の入門書。第1章「動機づけの心理学を展望する」は心理学説史小史。第2章は精神科医・和田秀樹氏との討論、第3章は教育社会学者・苅谷剛彦氏との討論が中心。これら3つの章を通じて読者は、「教育心理学とはどのような学問なのか」「心理…

城山三郎『鮮やかな男』

先週実家に帰省した折りに、たまたま父の本棚にあるのを見つけて、そのまま京都へ持ち帰ってきた。中学しか出ていない父だが、経済や経営に関する教養はおそろしいほどに高かった。現場(自営業)の経験に加えて、経済・企業小説を猛烈に読むことによって、父…

ミヒャエル・エンデ『モモ』

現代ドイツを代表する童話作家の代表作の一つ。本書を手に取ったきっかけは、最近読んだ辻信一『スロー・イズ・ビューティフル』*1と三島憲一『ニーチェ』*2の両方で紹介されていたから。特に前者は4度も本書に言及する熱の入れよう。それもそのはず、両著作…

植村光雄『哲学のえほん』

著者は河合塾世界史科講師。帯には「宇宙一、やさしい!」とある。プラトン、デカルト、カント、マルクス、サルトルの哲学のエッセンス――「イデア」「われ思う、ゆえにわれあり」「自由」「労働からの疎外」「実存は本質に先立つ」――を絵本形式で解き明かそ…

丹羽宇一郎・伊丹敬之『まずは社長がやめなさい』

伊藤忠商事社長(当時)と気鋭の経営学者との熱血(毒舌?憂国?愛国?)対談。*1丁々発止、融通無碍な対談の内容を限られたスペースにまとめることは難しいが、あえて大胆にまとめるならば、二つの重心を指摘できる。一つはリーダー(エリート、考えるコア)の発…

三島憲一『ニーチェ』

本書は、amazon.co.jpのカスタマーレビューにおいて、「新書という分量・内容的に制約がある媒体であるにもかかわらず、ニーチェ思想の基本事項のみならずその思想史的意義まできっちり押さえられており、手堅い出来となっている」とか「竹田青嗣・須藤訓任…

山本容子(絵)・池内紀(文)『絵本ファウスト』

毎日出版文化賞を受賞した池内紀訳のゲーテ『ファウスト(全2冊)』(集英社)のダイジェスト版とも言える絵本。本来1万2千余行もある長大な物語を50ページ余りの絵本へと圧縮するのはやはり無理がある。この絵本だけでは『ファウスト』がどんな筋書きをもっ…

森永卓郎『リストラと能力主義』

目下テレビ画面に登場する頻度が最も高いエコノミストの一人が2000年に公刊した新書。以前に読んだベストセラー(『年収300万円時代を生き抜く経済学』)が内容空虚な「オヤジ本」だったので、本書にもさほど大きな期待をかけていなかったが、読んでみてびっく…