目下テレビ画面に登場する頻度が最も高いエコノミストの一人が2000年に公刊した新書。以前に読んだベストセラー(『年収300万円時代を生き抜く経済学』)が内容空虚な「オヤジ本」だったので、本書にもさほど大きな期待をかけていなかったが、読んでみてびっくり、期待を裏切る充実した内容だった。今ほど忙しくなかったから執筆にエネルギーを注げたのだろうか?
著者によれば、近年多くの日本企業が行っているリストラ、導入を進めている能力主義は根本的に間違っている。能力主義が強まっていくと同時に、(キャリア設計に関する)個人優先主義が強まっていくはずなのに、我が国の企業は、能力主義を急速に強化しながら、依然として企業優先主義を放棄していない。それはなぜなのか?
個人優先主義などを採り入れたら、これまで日本企業の支配者として君臨し続けてきた「人事部」の存在意義がなくなってしまうからなのである。(p.35)
以下の引用などは、「人事部」を「文部科学省」に置き換えると、近年喧しい「大学改革」の真相が見えてきそうである。COEプロジェクトなんて、目標管理制度そのものだもの。
人事部の存在理由である中央集権的支配の構造を温存する人事制度・・・。そのために、最もよい方法が目標管理制度の導入なのだ。(p.88)
能力主義化の推進と公正で透明な評価を錦の御旗にして、人事部が拡充を目論んでいる目標管理制度は、中央集権型の人事管理システムを温存しようとする人事部の、いわば策略である。(p.90)
日本企業の雇用管理システムをソ連型社会主義のミニチュア版だと指摘する第2章は、決して目新しい内容ではないが、著者ならではのブラック・ユーモアが効いていて、読みごたえがある。企業理念の重要性を説く第4章はきわめて斬新な内容。経営者にカリスマ的リーダーシップは不要、会社の憲法たる企業理念の普及こそ経営者の最大の仕事、とまで言い切ってしまう。全面的に同意しないが、企業理念が果たす役割についてこれまでまともに考えてことがなかったので、大いに刺激を受けた。「学の実化」という関西大学の建学の理念の意味を考える良い機会になった。
『人事部の陰謀』『人事部の秘密』といったタイトルのほうが内容によりフィットしている気がするが、とにかく良書であることに間違いはない。
評価:★★★★☆
- 作者: 森永卓郎
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2000/02/01
- メディア: 新書
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