乱読ノート ~出町柳から哲学の道へ~

イギリス思想史を研究する大学教員の読書ノートです。もともとは自分自身のための備忘録として設置したものですが、「隠れ名著、忘れられた名著に関する情報を学生の皆さんに発信したい」というささやかな期待もこめられています。

植村光雄『哲学のえほん』

著者は河合塾世界史科講師。帯には「宇宙一、やさしい!」とある。

プラトンデカルト、カント、マルクスサルトルの哲学のエッセンス――「イデア」「われ思う、ゆえにわれあり」「自由」「労働からの疎外」「実存は本質に先立つ」――を絵本形式で解き明かそうとしている。この種の本はえてして「誇大広告」「羊頭狗肉」になりがちなのだが、本書は「看板に偽りなし」。本当に超わかりやすい。ゆっくり読んでも、15分もあれば読み終えることができる。そして、何度も読み返したくなる。読み返すたびに、言葉が放つ重層的なイメージがじわじわと脳内に染み入ってくる。「読む」のではなく「感じる」哲学書だ。

いずれの説明も本当によく練りこまれたものだが、とりわけプラトン、カント、サルトルの説明のうまさには感心した。本書は経済書ではないけれども、経済学部の開講科目である「経済学説史」「社会思想史」は哲学と密接な関係を有するという意味で、「落ちこぼれ経済学部生のための本棚」のラインナップにぜひとも加えたい一冊だ。

PHPは個性的な哲学入門書を作ることに長けている気がする。野矢茂樹『はじめて考えるときのように』も素晴らしい一冊だったことだし。

哲学のえほん

哲学のえほん

評価:★★★★★