乱読ノート ~出町柳から哲学の道へ~

イギリス思想史を研究する大学教員の読書ノートです。もともとは自分自身のための備忘録として設置したものですが、「隠れ名著、忘れられた名著に関する情報を学生の皆さんに発信したい」というささやかな期待もこめられています。

ポール・ストラザーン『90分でわかるプラトン』

こちらは正真正銘の超初学者向けプラトン入門書。植村光雄『哲学のえほん』の次のステップに手を出すべき本だろうか。本当に90分で読み終えることができる。

本文は60ページ足らず。もちろん多くは望めない。プラトンの著作で言及されているのは、わずかに『国家』と『饗宴』だけ。しかも『饗宴』はつけたし程度。しかし、イデア論の概要はかなりしっかりと押さえられている気がする。それ以上に、偉大な古代者の生涯が実に人間臭く描かれていることに好感が持てる。いかめしい面をしていた(と勝手に思い込んでいた)プラトンは実は僕たちににっこりと微笑みかけてくれていたんだね、といった感じの読後感。入門書はこうでなくちゃならないね。

今ゼミ生と一緒に『饗宴』を読んでいるので、『饗宴』に関する部分を抜粋・紹介しておこう。

『国家』よりはるかに愉快な読み物となっているのが、『饗宴』である。この『饗宴』では、様々な形態の愛についての議論が繰り広げられる。古代ギリシアは、性愛に対してオープンだった。だから、アルキビアデスがソクラテスへのホモセクシュアル的な愛を語る場面なども出てくる。また、それゆえにこそ、のちにこの書物が広い範囲で購読禁止になる。・・・。
では、プラトンにとって、エロスとは何だったのか?
それは善を求める魂の衝動に他ならない。
この衝動のもっとも低いレベルでの表現。それが美しき人への愛情であり、その人と一緒に子孫を生みたいという望みである。また、子孫を得ることで自分に不死を与えたいという願望である。
…。
もう一つ上の愛の形態。それは、もっと精神的な熱望に身を捧げ、社会的に善いことをおこなうことである。
最高のプラトニックラブ。それは哲学への献身に他ならない。そのきわみは、善のイデアを見ることであり、その神秘的なヴィジョンを手に入れることである。(pp.53-4)

90分でわかるプラトン

90分でわかるプラトン

評価:★★★★☆