著者は保守系の経済ジャーナリスト。本書は金融規制緩和の負の側面を豊富な具体的を用いて徹底的に暴き出したルポである。
小泉政権下で強力に推進された金融規制緩和によって、すべてを株価だけで評価するアメリカ型ファンド資本主義の病理が日本にも蔓延しつつある。金融の論理があまりにも優越してしまい、社会の論理を圧倒して人々の思考までも金融化しつつある現実を著者は憂慮する。
思考を金融化された人物の代表として、村上世彰(第1章)、堀江貴文(第2・3章)、ジャック・ウェルチ(第4章)、宮内義彦(第6章)らが登場する。王子製紙による北越製紙への敵対的買収の失敗の舞台裏(黒幕としての野村證券)を描きつつ、M&Aの周辺ビジネスの巨大さとその危険性を告発した第5章は特に興味深く読んだ。今年5月に解禁される「三角合併」の概要を知ることができたのは収穫だ。
副題は「金融モラル崩壊」だが、金融にモラルを回復させる方法までは、残念ながら洞察が及んでいない。次の作品ではそれを期待したい。
- 作者: 東谷暁
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2006/12
- メディア: 新書
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評価:★★★☆☆