岐阜県の中堅電設資材メーカー「未来工業」は、僕がここ数年いちばん注目している企業の一つだ。この会社は日本一労働時間が短い会社として知られている。残業ゼロ。完全週休二日はもちろんとして、それに加えて年末年始休暇は19日間、GWは10日間、夏期休暇は10日間もある。火曜が祝日なら月曜日も休み、木曜日が祝日なら金曜日も休みである。年間総労働時間は約1640時間。かつて余暇開発センターの「ゆとり度診断」で優秀企業として表彰されたこともある。しかもタイムカードも制服もノルマもない。それでいて常に15%以上の経常利益率を実現している。まさしくスローな働き方を可能にするスローな企業である。
このような一見不可能に思えるような経営が可能となった背景には、「常に考える」「やる気」「自主性」「自覚」「工夫」「差別化」「プラス思考」「性善説」を説き続け実践し続けた創業者・山田昭男氏(現取締役相談役)の存在がある。本書は山田氏自身が未来工業の創業からの発展史をそのユニークな(ユニークすぎる?)経営哲学とともに語ったものである。
未来工業の製品は、ある意味では、どんなところでもつくれるものばかりだと言ってもいい。他者が真似できないほどの独自の技術はほとんどないといってもいいだろう。
それだけでは食べていけないから、「必ず付加価値のあるものをつくろう」と決め、そのために頭をひねってきたのだ。(p.134)
会社経営のいちばんの柱は社員のやる気だ。・・・。
・・・「社員のやる気をいかに起こさせ、いかに高めるか」を考えるのが、社長のいちばん大切な仕事と言える。やる気を起こさせれば、会社というのはぜったいに回っていくというのが私の論理だ。
・・・社員の立場になって考えればすぐにわかることだが、給料は安い、休みはない、何から何までがんじがらめの会社で働いていても楽しいはずはないし、そんな会社のために努力しようという気が起きてくるはずがない。だから、私ははずせる制約はできるだけはずそうと考えている。(pp.146-51)
山田氏はかつて大垣の地方劇団「未来座」の座長であった。さすがに親近感を感じずにはいられない。僕自身の演劇経験と照らし合わせるならば、演劇体験は彼の経営哲学に大きな影響を及ぼしているように思える。彼は「どんなセクションであれ、そのセクションのトップとして待遇してやれば、社員自身がそれなりに考えるようになる。・・・なるだけ社員に任せよう。そうすればやってくれるだろう」(p.133)と述べているが、そもそも劇団員へのそうした信頼なしで一本の芝居を作れるわけがない。一人一人の劇団員が自分なりに考えて芝居作りに関わりそれに楽しみを見出していなければ、良い芝居を打てるわけがない。*1「楽して、儲ける!」方法は本書には書かれていないが、芝居作りのように考えることが楽しいことになれば、それが結果的に儲けにつながっていく。そういう意味では、やはり「楽して、儲ける!」ための本なのかもしれない。
未来工業のHP*2、特に採用情報のページはたいへん面白いので、ぜひ一度ご覧いただきたい。入社希望者への課題がnakazawaゼミの入ゼミ課題ときわめてよく似ているのだが、「考える」ことと「やる気」を最重視している点が共通しているから、当然なのかもしれない。
リストラという名の首切りが猛威をふるっていたバブル不況期に、このような人間の顔をした企業が成長し続けていたことに、僕は大きな希望を感じる。日本的経営はまったく時代遅れなんかになっていない。本書を読んでいると元気が湧いてくる。近い将来、未来工業の工業見学とヒアリングをぜひとも行なわせてもらいたいと思っている。
常に考える! ゼミ生の合言葉になって欲しいものだ。
楽して、儲ける!―発想と差別化でローテクでも勝てる!未来工業・山田昭男の型破り経営論!
- 作者: 山田昭男
- 出版社/メーカー: 中経出版
- 発売日: 2004/03
- メディア: 単行本
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*1:逆は必ずしも真ではないが。